2023信大環境報告書
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平川 秀樹・ひらかわ ひでき1995年 信州大学大学院工学系研究科 私は、修士課程修了後、発泡プラスチック断熱材のメーカーに就職し、断熱工法の開発や、その普及活動などの業務を行ってきました。現在は、札幌市にある北海道科学大学にて、建築環境工学や寒地建築について教えるほか、「既存建物の性能向上改修」を主なテーマとして研究や技術開発に取り組んでいます。 私が北海道で仕事をするようになったのは2000年ごろからなので、もう25年近く前のことになります。当時の北海道は、道内の産・学・官が一体となって取り組んだ「北方型住宅」や断熱施工技術者資格の認定講習会などを通じて、省エネルギー住宅の計画における「断熱、気密、換気、暖房」の重要性が、すでに多くの建築関係者に認識されている状況でした。そのため、最初の頃は、実務や現場での話に全くついて行けず、学生時代に学んだことを振り返りながら、必死になってその理解に努めていたことが思い出されます。 現在の北海道では、断熱性能は外皮平均熱貫流率0.28 W/㎡K、気密性能は相当隙間面積0.5㎠/㎡程度が新築住宅の標準となっており、世界でもトップレベルの断熱・気密技術を有した地域と思います。そのような北海道においても、既存住宅の性能向上改修は、まだまだ一般的とは言いがたい状況です。しかし、2050年のカーボンニュートラルを達成するためには、新築に比べて、既に膨大な数が存在する既存住宅の性能向上は必須です。 北海道では、25年前当時、結露問題を抱えているRC造の集合住宅などは多くあり、それらに対して防露改修などが行われていました。私も、そのような建物の結露問題を解消して高断熱化を図るシンプルな外断熱改修工法を考案し、2004年頃に実用化して特許も取得しました。その後、この工法は、改修・新築、さらに住宅・非住宅を問わず、およ社会開発工学専攻修士課程修了1995年 ダウ化工株式会社入社2017年 北海道大学大学院工学院空間性能システム専攻博士後期課程修了2020年 北海道科学大学工学部建築学科に准教授として着任倉庫を事務所にコンバージョンした事例(2021年、左:改修前、右:外断熱改修後)そ数百棟の建物で採用されています。 また、外断熱改修工法の開発は、後に博士号を取得するきっかけにもなりました。私の博士論文のタイトルは「札幌市内の分譲マンションストックにおける暖房用エネルギー消費量削減に関する研究」ですが、分譲マンションの大規模修繕において外断熱改修の導入を検討するときに必要な、暖房用エネルギー消費量削減および室温上昇に関する効果の推定方法や、各部の高耐久な納まりや長期修繕計画の立案手法などを論じた内容となっています。ここでの研究の成果は、北海道が作成したマンション管理組合向けのパンフレット「外断熱改修のすすめ マンション長期修繕計画の新提案」にも反映されています。 すでに欧米各国では建設投資の半分以上が改修という状況を考えると、人口減少社会となり空き家が増える一方の日本においても、既存の建物を壊して廃棄物を増やすのではなく、それらを性能向上改修によって長く大切に使うという行動の転換は必然と思われます。現在、私は、人工衛星データを活用した既存分譲マンションの長期修繕計画立案の省力化と性能向上改修の導入を支援する研究に取り組んでいます。修士論文は、人工衛星データを用いたリモートセンシングに関する研究であったので、およそ30年を経過して、修士論文と博士論文を融合させたような研究に取り組むとは夢にも思わなかったことですが、建築の基礎を学び、いまにつながる研究テーマを与えてくれた信州大学に感謝しつつ、「住み続けられるまちづくりを」の実現に向けてこれからも取り組んでいきたいと思います。大規模修繕で外断熱改修を導入したマンションの事例(2004年)8TOPIC 03環境と生きる人づくり (OB・OGの環境活動)現在の仕事と環境問題とのかかわり北海道科学大学工学部建築学科 平川 秀樹さん

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