2023信大環境報告書
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図1 観測システムの概要2011年 理化学研究所2012年 理化学研究所2013年 理化学研究所 光量子光学研究領域2014年 信州大学 学術研究院工学系 助教情報機能システム専攻 修了光グリーンテクノロジー特別研究ユニット 研究補助光グリーンテクノロジー特別研究ユニット 特別研究員光量子制御技術開発チーム 特別研究員図2 上空5kmでのVAOD分布環境への取り組み冨田 孝幸(とみた たかゆき)2012年 山梨大学大学院 医学工学総合教育部21■背景 宇宙を飛びかう高エネルギー粒子を総じて宇宙線という。宇宙線の中でも非常に高エネルギーな超高エネルギー宇宙線(UHECR)の観測を目的として、宇宙線望遠鏡(TA)実験は米国ユタ州ミラード郡の荒野にて2007年より大気蛍光望遠鏡(FD)を稼働させている。宇宙線の到来頻度はそのエネルギーEが大きくなるにつれてE2に比例して減少する。観測史上最高レベルのUHECRにもなると山手線内側(≈65㎢)に年間1〜2観測程度になる。極めて少ない到来頻度に観測有効面積の増大で対応するのが一般的である。また、観測有効面積を広げるために、UHECRが大気中でカスケード的に大量の宇宙線二次粒子を生成する空気シャワー現象を観測対象としている。 FDはこの宇宙線二次粒子が大気中の窒素を励起して発する紫外線蛍光を側方から観測するため、1機あたりの観測対象となる空間が広がり効率的な観測を実現する。FDにより観測された蛍光の総発光量からその一次粒子のエネルギーを決定し、複数のFDの2次元画像と信号取得時間から飛跡と到来方向を決定する。FDの観測では広大な観測領域を確保でき、一次粒子の質量組成の情報を保持する宇宙線空気シャワーの縦方向発達過程をつぶさに捕捉できるため世界的に主要な観測手段となっており、TA実験でも観測地を取り囲む3拠点に合計で38機のFDを設置し700㎢の観測面積を確保している。 FDの観測距離は平均的に20kmにも及ぶため、大気蛍光の発生点からFDまでの伝搬過程において大気分子やエアロゾルによりその光量が減衰する。大気分子による減衰は気温・気圧を基にした計算によって得られ、TA実験では全世界的な定常観測結果を時間・空間的に解析した数値予報システムの解析データ「Global Data Assimilation System(GDAS)」によって観測地とその上空での気温・気圧を得ている。エアロゾルは地域の自然環境により異なり、気温・気圧のような基礎的な環境データから得ることは困難である。このため、いずれの望遠鏡を用いたUHECR観測でもエアロゾルによる大気透明度を現地にて測定する。■観測システム 図1に示すようにビームエキスパンダーの前段でレーザーの25%を分割して大気中へ射出したレーザーの出力変動を測定する。絶対出力モニターは観測後に大気中へ射出される直前の光路上にプローブを導入し、大気中へ射出されたレーザー出力と相対出力モニターとの関係を計測する。この計測は、観測の都度異なる3レベルのエネルギーで各100発ずつ計測される。■大気透明度 TA実験の較正値として使用するVertical Aerosol Optical Depth(VAOD)は鉛直方向におけるエアロゾルの光学的厚さを示す大気透明度である。解析対象とした1年間のVAODを図2に示す。偏りのある分布のため中央値とその値に対する残差二乗和の根により得られた1σの分布幅をもって典型値とすると0.042+0.031と0.042−0.014 0.042(+0.031)(-0.014)となった。このVAODによる透過率は地上における20km遠方の上空5kmで84%となる。2-2 環境研究バイスタティックライダーによる米国ユタ州の荒野地帯の大気透明度計測工学部 電子情報システム工学科 助教 冨田 孝幸02

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