保健学科研究紹介2023
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―33―佐藤 正彬 助教大塚 りさ 助教信州大学医学部保健学科を卒業。卒業後、上伊那生協病院、信州大学医学部附属病院での勤務を経て、2016年4月より本学に着任。信州大学大学院総合医理工学研究科博士課程修了(保健学博士)。信州大学医学部保健学科卒業。同大学院で博士号(保健学)取得。2023年より現職。 心疾患は日本人の死因別死亡率の第2位を占めています。中でも心不全は心疾患の終末像とも呼ばれ、患者数は今後も増加の一途をたどり、2035年までに130万人に達すると言われています。近年、社会の高齢化に伴い虚弱な高齢心疾患患者が増加傾向にあり、循環器の問題だけでなく精神機能や認知機能の低下を有する方も少なくありません。認知機能障害を併存する患者は、薬の自己管理など、自身での体調管理が困難になる場合が多く、それが病状を悪化させる原因の一つとなります。佐藤研究室では、多様化する心疾患患者の病態と生活機能の関係を明らかにし、心疾患患者の長期にわたる健康的な生活の実現に向けた新たな作業療法介入の開発を目指していきたいと考えています。 認知機能低下は、加齢や疾病によって、誰にでも起こり得ます。認知機能低下が軽度であっても、お薬の飲み忘れや火の消し忘れ、約束の時間忘れ等の支障が生じます。このような認知機能低下による生活上の支障は、認知機能を補う生活の工夫(認知機能の補償方略)を適応することで、少なくできます。さらに、認知機能が正常か軽度低下のうちに、認知機能を補う生活の工夫を習得しておくことで、より長く自律的に生活できる可能性も示されています。私たちは、認知機能低下のある高齢者のご自宅に伺ってその方の生活に合わせて生活の工夫を提案する個別プログラムと、地域の公民館に伺って高齢者に生活の工夫を習得していただく集団プログラムについて研究しています。循環器疾患を抱えながらも畑仕事や家事を遂行する80代後半女性。服薬は自己管理し、日々活動的で健康的な生活を送っている。信州大学医学部附属病院のスタッフと協力し、多職種で構成されるチームで循環器疾患の患者さんに対する臨床や研究を行っている。 左図:若年患者への生活動作指導を作業療法士が行っている様子。  右図:心臓手術後患者の床上動作練習の一場面。認知機能低下のある高齢者のご自宅に伺って、認知機能の補償方略を提案する訪問プログラム。ただ道具を導入するのでなくて、どのように使っていったらよいかを、ご本人・ご家族等と相談しながら考えます。地域の公民館に伺って、高齢者に認知機能の補償方略を習得していただく集団プログラム。このプログラムでは、もの忘れの経験は普遍的なものであり、誰にでも起こり得ることとして、認知機能低下への過剰な不安感を低下させることも目的としています。研究から広がる未来 リハビリテーションの対象となる循環器疾患の患者は増加傾向にあり、作業療法士も心臓リハビリテーションチームの一員として役割を果たしていくことが求められています。循環器疾患に併存する認知機能や精神機能の障害と生活機能の関係性を明らかにすることで、臨床の現場において循環器疾患の身体機能障害だけでなく、精神や認知機能の障害を捉えた上での包括的な生活支援を展開することができます。卒業後の未来像 作業療法士は医療機関から地域・行政など幅広い分野で活躍しています。どの分野においても、日頃から疑問を持ち、それを解決していくプロセスが重要です。患者さんの生活を幸せなものにするために、自身の努力を惜しまない職業人を目指していきましょう。研究から広がる未来 認知症や認知障害に対して、様々な情報や経験からネガティブな印象を抱かれている方も多いかもしれません。ただ認知症や認知障害は誰にでも起こり得ることですので、自分や家族のこととして、あらかじめ備えておくことも大切だと思うのです。認知障害があっても、ご本人もご家族も、元気に暮らしていける未来に貢献していけたらいいなと思っています。卒業後の未来像 作業療法士として医療機関や地域等で、様々な障害や疾患の方の作業を支援します。卒業後も、大学院や勉強会、資格取得等、自己研鑽に励む方が多いです。勉強会等で卒業生と遭遇することもしばしばで、頑張っている姿にとても刺激を受けます。実践作業療法学実践作業療法学作業療法学専攻心疾患患者の健康的な生活の実現作業療法学専攻認知機能低下に備える生活の工夫―循環器領域における作業療法研究―高齢者が自律的に穏やかに暮らせるように

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