研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例主な研究事例5ゼミナールでは研究テーマを選んでグループワークを重ね、研究成果を専門家や住民のみなさんの前で発表します。写真は認知症研究の発表風景で、行政職員や保健師、社会福祉士のプロフェッショナルの皆さんからコメントをいただきました。研究成果を社会実装することもゼミナールの研究のひとつです。理論で得られた成果をわかりやすく地域活動に活かす作業は、研究同様に大切なプロセスです。写真は松本市城北地区の高齢者サロンの場を借りてクリスマス会を企画・運営したときのものです。 これまで長野県松本市や上田市、伊那市などと協力して、“つながりと笑顔がある地域づくり”の実践研究を重ねてきました。これは、住民の生活圏に行政職員や医療・介護・福祉の専門職、地域住民と協働で「地域包括ケア」と言われるコミュニティヘルスのある地域社会を創設する取り組みです。この取り組みには、研究室の学生も参加しています。 現在では、長野県下の自治体や社会福祉協議会、ソーシャルワーカーなどの専門職の協力を得て、未来人の視点で持続可能な社会システムを創り出す「フューチャー・デザイン」を社会実装するための研究を実施しています。日本被害者学会において、犯罪被害者の損害賠償請求の実現について発表を行い、制度の在り方について、学会にご臨席された先生と議論しました。・ 受刑者の円滑な社会復帰を図る仮釈放制度の要件やその許可の判断基準について、比較法的検討を行っています。信州大学経法論集第13号(2022年)1頁以下拙稿掲載。・ 犯罪被害者の損害賠償請求の実現に対する支援について、研究論文を公刊しました。被害者研究31号104頁以下(2022年)。・刑事政策には、犯罪の予防、犯罪者の適正な処罰と社会復帰及び再犯防止、そして、被害者の立ち直り、という三つの目的があります。究極な目的は、犯罪の少ない安全な社会の実現です。 研究室が挑む社会問題のひとつは「健康寿命を延ばし、高齢者の孤独死を防ぐにはどうすればよいか」。私たちは、この問題の解決方法のひとつとして“つながりと笑顔がある地域づくり・関係づくり”を研究しています。 “誰もが、住み慣れた家で、地域で、自分らしく安心して暮らし続けること”は、私たちが望んでいるふつうの幸せです。しかし今の私たちは、ふつうの幸せを達成するのが難しい時代を生きています。その背景にあるのが人口減少と少子高齢化の同時進行です。 ふつうの幸せを保障するしくみのひとつが「社会保障」です。しかし経済成長と人口増加を背景に作られたしくみのために、この社会問題を根本から解決できません。私たちはコミュニティヘルスを手がかりに、この問題の解決方法を探っています。井上 信宏 教授1998年3月に東京大学大学院経済学研究科を修了、同年4月に信州大学経済学部に着任。2011年9月から教授。専攻は社会政策、社会調査。現在、コミュニティヘルスに注目して、人口減少・高齢社会における持続可能な地域づくり・関係づくりを研究している。 毎日、私たちの周りには、犯罪に関する報道が溢れています。犯罪者が逮捕され起訴されて、そして刑務所に送られることにより、犯罪事件が解決されると思われがちですが、これだけで足りるでしょうか?確かに、犯罪者に対して、その犯罪行為に相応しい制裁を与えることは重要ですが、彼らが刑罰を受けたあと、いずれ社会の一員に戻りますので、彼らを再犯させないように、しかるべき対策を取るなどの工夫が必要です。そして、犯罪は、事後的処理ではなく、できるだけ事前的予防を図ることも重要であって、加えて、犯罪被害者に対しても、私たち社会全体が、その立ち直りを支援しなければなりません。このような刑事司法のテーマについて、考察・研究しています。呉 柏蒼 講師台湾台北大学法学部法学研究科修士課程(刑事法専攻)修了、慶應義塾大学法学研究科後期博士課程公法専攻修了。博士(法学)。慶應義塾法学研究科助教(有期・研究奨励)、帝京大学法学部法律学科非常勤講師などを経て現職。 私たちの研究の軸足は「社会政策」と「社会調査」にあります。 社会政策とは、個人の力だけでは解決ができない社会問題を解決するための公共政策です。社会保障、社会福祉、健康政策、生活問題、地域づくり、教育、ジェンダー、労働などのテーマ群から成り立っており、高齢社会問題、格差社会と貧困問題、健康格差、各世代の生きづらさなど、現代的な社会問題の解決を図るための政策科学です。 研究室(ゼミナール)では、社会政策の考え方を身につけ、解決すべき社会問題を選び出し、その問題の背景を社会調査の手法で科学的に分析し、解決に向けた政策提言を導き出す研究をしています。 私たちが注目するコミュニティヘルスとは“自分で生き方を選ぶ自由が認められている”社会関係のなかで、“客観的にも認められる健康な状態で生活を送る”ことができる地域社会を創り出すことにあります。 研究室の卒業生は、市町村自治体の職員、NPOの職員として、政策提言に向けた基礎調査や地域づくりに主体的に取り組む仕事に就くことが期待されています。 日本は、諸外国に比べ犯罪が少なく、安全な国として認識されています。しかし、著しい高齢化がもたらす犯罪コントロールへの影響や少数の再犯者が多数の犯罪を起こしてしまうなど、政策的課題が数多く存在しており、犯罪の少ない社会づくりの探求には終わりがありません。 これらの課題を考えるときに、犯罪と刑罰の内容を定める刑法と、犯罪を追及するための手続を定める刑事訴訟法を基礎にして、犯罪学や被害者学など学際的学問を活用しつつ、統計数字を根拠にしなければなりません。一見難しそうですが、マクロ的視点から問題を捉え、ミクロ的視点で解決案を探ることで多角的思考を促すことにつながり、実は面白いことです。さらに、制度面について、海外の法制度と比較する手法も欠かせないので、国際的視野を養うこともできます。 このような学問を学ぶことは、社会人としての知性の形成に役立ち、公的部門への就職は勿論、情報の収集・分析や戦略の策定が必要とされる民間企業でも転用できますので、卒業後は各分野で活躍できるはずです。応用経済学科応用経済学科コミュニティヘルスの地域づくり・関係づくりから持続可能な社会システムを考える犯罪と刑罰、そして、犯罪被害者について、私たちはどう考えるべきでしょうか?
元のページ ../index.html#6