農学部研究紹介2023
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上の写真は,抗生物質リンコマイシン(LIN)の非存在下・存在下で放線菌ストレプトマイセスセリカラー株を培養した時の様子を示しています。この放線菌は,高濃度のLIN存在下では生育できませんが,低濃度のLIN存在下では良好に生育し,LIN非存在下では認められない青色色素抗生物質(二次代謝産物)を高生産します。この現象から,LINは,単なる抗菌物質としてだけでなく,二次代謝活性化物質としても働くことが明らかになりました。放線菌独立行政法人食品総合研究所特別研究員を経て2007年11月より信州大学農学部。研究分野は応用微生物学。「抗生物質は自然界においてどのような存在なのか」、「微生物はなぜ抗生物質をつくるのか」、これらの謎を紐解きたい。藤田智之教授日本テルペン化学株式会社研究員、大阪府立大学農学部助手、大阪府立大学大学院生命環境科学研究科助教授を経て、2006年より現職。研究分野は食品化学、天然物有機化学。加工した素材中の有用成分の組成や成分量の変化を解析します食品素材(穀類や果実)を100MPa程度の中高圧下で加工すると大気圧下では起こらない変化が現れます【玄米】【糠の成分を含む白米】放線菌は,抗生物質をはじめとする様々な二次代謝産物を生産することで知られており,産業的に極めて有用な微生物群です。現在までに発見された微生物由来の低分子生理活性物質(広義の抗生物質)の7割近くが放線菌の二次代謝産物からであり,それらの中には,医薬,農薬,動物薬として実用化されたものが数多くあります。過去十数年のゲノムプロジェクトの成果からは,放線菌の二次代謝に関与する遺伝子の多くが潜在的に存在していることも判ってきました。放線菌の二次代謝の仕組みを深く理解し,その潜在的な二次代謝能を引き出し活用することは,微生物創薬の研究を発展させる上で重要課題の一つと位置付けられています。中高圧加工処理精米機能性分子解析学研究室20世紀初頭のペニシリンの発見を契機に、抗菌性を有する物質が微生物の二次代謝産物から探索されるようになりました。1940年代には、土中に棲む放線菌の二次代謝産物から結核菌に効くストレプトマイシンが発見され、抗生物質という言葉が誕生しました。それから現在に至るまで、様々な微生物から多くの抗生物質が開発され、人類はそれらから多大な恩恵を受けてきました。抗生物質の元来の定義は、微生物が生産し、他の微生物の生育を抑制する効果があり、動物に対して毒性の低い化学物質とされています。抗生物質と聞けばこのイメージが浮かびますが、自然界ではどのような存在か?といった抗生物質の根本的な性質が十分に理解されているわけではありません。私達の研究室では、微生物や抗生物質に関する素朴な疑問に触れながら、その解明と応用研究への展開を目指しています。保坂毅准教授応用分子微生物学研究室研究から広がる未来多剤耐性菌が次々と発生する中で、新しい抗生物質の発見が求められています。しかし、放線菌をはじめ、微生物の二次代謝産物から得られることの多い抗生物質の発見数は減少の一途を辿っています。この窮地を乗り切るには、新しい抗生物質の開発に尽力することに加え、抗生物質の本質を理解することが極めて重要です。応用分子微生物学研究室では、抗生物質を取り巻く様々な課題や疑問の解明を目指して、代表的な抗生物質生産菌である放線菌の分子生理学的研究を展開しています。卒業後の未来像微生物実験や分子生物学実験、さらには生化学実験を通して、微生物の機能を細胞および分子レベルで理解できるようになり、食品・医薬品分野における微生物資源の利用高度化に向けた最新の知見や技術が身につきます。卒業後に食品・製薬関連分野の企業等で活躍できる人材の育成を目指しています。研究から広がる未来天然素材に含まれる有用成分を純粋に取り出して、その化学構造を明らかにする技術は、食品分野だけでなく、生薬の分析や生物間で作用する生理活性物質の探索研究にも活かすことができます。そのため他分野の研究者と共同で研究を進めることが少なくありません。研究室で発見した成分や新たに開発した技術などをシーズ(種子)として、有効性の高いテーマは企業と共同で商品化に向けての検討を進めています。卒業後の未来像藤田研究室では、食品中の有用成分に焦点を当てて研究を行っています。卒業生は食品企業だけでなく、香料や化成品などファインケミカルズと呼ばれる製品群を扱う業種の開発職として就職しています。植物やキノコなど天然素材の中には各種疾病の発症予防や軽減化に寄与する未知の成分が含まれています。それらの素材の中から、新しい有用成分を探し出し、人の健康維持に役立つ新食品素材の開発を目指して研究を行っています。また、100メガパスカル(水深1万メートルの水圧に相当)程度の加圧が可能な高圧処理装置を用いて、食品素材の新しい加工方法を検討しています。玄米や籾に加水して高圧処理すると、糠(ヌカ)に含まれる機能性成分が胚乳に浸透移行します。この白米を食べると、玄米食と同様の健康効果が得られることを確認しています。生命機能科学コース生命機能科学コース抗生物質の本質的理解に向けた放線菌の分子生理学的研究健康に役立つ新食品素材の探究ー天然素材は可能性を秘めた宝物ー7

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