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今回の舞台となった諏訪湖畔では、鳥類学・河川生態学を専門とする笠原助教が、参加者と共に双眼鏡でカルガモ、アオサギ、オオバンなどの野鳥を観察しました。湖面を覆う水草「ヒシ」の上で採食するサギ類の姿を見ることができ、笠原助教が、ヒシが諏訪湖に与える影響について解説するという現場ならではの即席授業を開催。参加者はみな興味津々に笠原助教の解説に耳を傾けました。1970〜1980年代、諏訪湖は生活排水や産業排水などの流入により、湖水の富栄養化が進みアオコが大量発生し、環境問題となった負の歴史があります。下水道整備などにより、アオコの発生は減少しましたが、その後の新たな問題がヒシの大発生です。ヒシには富栄養化の原因となる水中のリンや窒素を吸収してくれるという役割がある一方、ヒシが水面を覆うように茂ると、水中に溶けている酸素量が減り、魚類などの生息環境や湖の生態系に悪影響を及ぼすと考えられています。そのため、諏訪湖では人の手で定期的にヒシを刈り取り、湖外に排出する作業が行われています。「ヒシの上から鳥たちが水中の魚を狙っているのを見れば、この水草が諏訪湖の生き物のつながりに関係していることがわかり2003年3月 信州大学大学院教育学研究科修了、2009年3月 東京大学大学院農学生命科学研究科博士課程修了弘前大学農学生命科学部研究機関研究員を経て2019年4月から現職ます。人間がヒシとどう付き合っていくかは、諏訪湖に生息する鳥や魚などの生き物にも大きく影響します。諏訪湖周辺に暮らしている人たちは、私たち研究者より諏訪湖に対する関心が高い。諏訪湖の未来を考えるうえで、重要なのは地域の人たちが持つビジョンなのです」。笠原助教のそんな言葉に参加者は深く頷きながら、生き物を通して知る諏訪湖の現状を体感していました。笠原助教は、「中学の頃は美術部で、どちらかと言うと大人しく本を読んでいるようなタイプ。外で観察したりする方ではなかった」と話します。子どもの頃から鳥好きだった、という鳥類研究者も多い中、笠原助教が鳥に興味を持ち始めたのは大学生になってから。サークルの先輩に「一緒に鳥を見に行かんか?」と誘われたことがきっかけだったそうです。高校の途中で理系に転身、大学は教育学部に進学し、大学院、ポストドクター時代を経てようやく就職できたのは40歳を過ぎてからだったそう。修士課程から約20年間続けた千曲川(長野県)での研究が、母校である信州大学との縁を再び繋ぐこととなりました。「私は、職業研究者になるまですごく時間が掛かっています。何気なく始めた鳥の研究でしたが、多くの出会いに恵まれ、研究が続けられる環境を求めていったら現在の職にたどりつきました。その時にいつも原動力としてあったのは、『研究が楽しいな』という思いです」。そんな笠原助教の最後の言葉には、やりたいことをとことん突き詰め研究者への道を切り拓いてきたからこそのメッセージが詰まっていました。「高校生の時は夢を大事にしてほしい。とはいえ、興味が変わることもある。その時は柔軟に、自分の心に素直に歩んでいくのがいいと思います」と笠原助教。フィールドラボへの参加は、自身の意外な一面に気づいたり、新たな興味に出会えるきっかけになってくれるに違いありません。信州大学学術研究院(理学系)信州大学理学部附属湖沼高地教育研究センター諏訪臨湖実験所笠原 里恵 助教信州大学附属松本中学校1年小林 良佑那くん学校で配布されたチラシで研究所に興味をもって参加。野鳥の観察は初めて。「8倍の双眼鏡を使って観察したカルガモは毛並みや色が鮮やかに見えて驚いた」と感想を話してくれた松本県ヶ丘高等学校3年櫻井 宥季さん「やってみたいことをできるところまでやってみてほしい」と応援してくれるお母さんと一緒に参加。鳥類の研究者である笠原先生に、どこの大学でどのような研究ができるのかなど具体的に質問。「研究者への道のりは険しそうだけど猛禽類の研究をしてみたい」と意欲を見せた松本県ヶ丘高等学校1年渡邉 咲奈さん探求学習で水質をテーマにしていたことから参加。「ヒシをどうしてそのままにしているのか疑問に思っていたが諏訪湖の状況を知ることができた。学問を突き詰めるのもすごく楽しそうだと思った」と話してくれた。希望する進路は理系08何気なく始めた鳥の研究が一生の仕事に参加者の声

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