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私の研究室では、ドローンを使用して葉の付いていない樹木の枝を細かくデータ化していくという取り組みを2年ほど前から行っています。その取り組みの中で培ってきた工学技術を倉庫内のネズミ駆除にも技術転用できると思い、今回のプロジェクトに加わりました。このプロジェクトの中で私たちの設計工学に基づいた技術が必要となってくるのは、ドローンの軌道を生成する場面においてです。設計工学において主要な研究分野である最適化の技術を応用します。そもそも最適化とは、様々な環境要素を考慮して必要な条件を満たす最適解を生み出す技術のことで、例えば太陽光パネルの配置最適化といった事例が挙げられます。設置する敷地の形状や緯度は様々で、必ずしも真南に向けてパネルを設置することが最善とは限りません。そこで最適化の技術を用いれば、敷地の形状や影のかかり方等に合わせて受光量が最大となるパネル配置を割り出すことができるのです。今回はその技術をドローンの軌道生成に用います。目標点となるネズミは当然動き回るので、ドローンはそれに合わせて軌道を変える必要がありますが、最適化の技術を用いることで、クラウド上に遂次保存されていくネズミの位置情報を3次元座標に変換して、そこから考えられる無数の軌道の中から最適な軌道を見つけ出すことが可能となります。 最適軌道生成の問題は組み合わせ最適化問題として解きます。最適化問題の中でも解くのが難しい部類に入るため最適解の算出にはかなりの時間を要するのですが、私の研究室で開発した軌道生成アルゴリズムを適用し改良することで現実の問題に対する解法として社会実装していくことが目標です。また、近年日本では機械工学に関わる技術者が不足しています。高大接続で高校生も実践の場に立ってもらいながら、機械工学をベースにした製品開発や技術開発などにも取り組んでいきたいと思っています。複雑形状の敷地における太陽光発電アレイの最適配置を計算した例。もちろんアレイの向きなども計算され最大出力となる設計。信州大学学術研究院(工学系)工学部機械システム工学科中村 正行 教授参加メンバーは全員3年生。夏休み返上でプロジェクトに取り組んだ。左からリーダーの宮沢さん、プログラミング担当の西脇さん、ドローンの発着ステーションを担当した大月さん。長野県松本工業高等学校電子工学科・電子工学部顧問三澤 実 教諭電子工学部は部員数100人ほどの部活で、マイクロロボコン高校生大会で2連覇を果たした西脇君らを含む4人が今回のプロジェクトに携わり、ドローンの自動運転のための制御プログラムを自分たちで開発しました。使用したのはAIとも親和性が高いプログラミング言語のPython(パイソン)です。学校の授業では教えていないので、彼らが一から自分たちで勉強しました。私は顧問ですが、あくまで部活動ということで、ヒントを出すことはあっても、教えることはありません。常に自分たちで何をしたいのか考えてもらい、活動環境の整備も、目標設定も彼らが自分たちでやるようにしています。今年2月にドローンが本校に導入され、初めは飛ばすことすらままならない状態でしたが、短期間のうちに様々な知識を吸収し、壁にぶつかりながらも、どう克服していくかを日々考えて取り組んでいました。ドローン制御の「慣性誘導」という言葉も大学レベルの用語ですが、彼ら自身で勉強して会得していきました。このような自主的な姿勢は今、大学だけでなく高校でも育まれています。本校でも「主体的に、探究的に」ということをテーマとし、困っている人の話を自分事として捉えることを勧めています。過去にも、私たち高校側から産学官連携を持ち掛け、市などと連携しながら、高校生が主体となって問題解決に取り組んだことがあります。そういった経験が彼らの後ろ盾になっているのだと思います。今回のプロジェクトは大きく分けると3ステップになります。ドローンを制御して目的の座標まで飛ばすのがステップ1。ステップ2は信大との連携で、3Dマップのナビゲーションになります。そして、ステップ3はAIカメラと連動してネズミをトレースする技術です。現在、ステップ1が達成でき、これからステップ2に入っていきますが、今後も自主的かつ探究的に、自分たちが取り組んでいることの意義を見つけてもらいながら、このプロジェクトを完結させていくことを目指しています。06「最適化」による軌道生成技術の確立を目指す独学習得のプログラミング言語でドローンを制御する

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