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思いもあって、床の上という2次元で対処できるラジコンカーによるソリューションを模索してはどうかとも考えたそうです。しかし、松本工業高校の4人の生徒が出した答えは、教授の意に反してプログラムを作るならドローンの方がはるかに簡単というものでした。「四輪のラジコンカーでは床面の状況によってスリップ誤差が出てしまう。対してコンピューターでプロペラを別々に制御できるドローンなら確実に精度が上がるというアドバイスを逆にいただきました(笑)」(中村教授)。加えてドローンなら、原料の入ったフレコンを避けて進まなくても、自由に飛べる空間まで一気に上昇し、最短距離で移動することができます。三澤先生が、ドローンに搭載されるコンピューターをプログラムにより直接制御する技術をお持ちだったこともあり、予想以上に実現性が高く、早い段階での実装が可能になったドローンを採用することに決定したと言います。そんな最先端のネズミによる食害対策システムの完成に向けて、現在はヤマサ倉庫内に設置したカメラの画像データをAIで解析するシステムを構築、信州大学が3Dマップの制作と捕捉したネズミまでの最適ルートをドローンに指示するシステムを構築。松本工業高校はシステムからのコマンドによるドローンの管制と運用を担当。ドローンの動き(示威行動)やステーションの開発を担っています。もちろんどのパートも欠かすことはできませんが、やはり完成のキーを握るのは倉庫内の3Dマップ化とそれを元にしたドローンの軌道、すなわち無限に作ることができてしまうルートの中から最も適した軌道を生成することができる最適化です。中村教授は、最適化の技術を用いれば、動き回るネズミに合わせて逐一その位置情報を3次元座標に変換し、バッテリーの残量が尽きるまでドローンで追いかけ回すようなことも可能だと言います。(株)ヤマサは、このプロジェクトの成果を他の動物にも応用し、鳥獣害対策の新しいデフォルトのひとつに育て上げることも検討中。物づくりと地球環境および人間との“調和”を実現する「最適化」の技術、まだ存在しない“未来”を計画し創造する「設計」の技術をキーフレーズに据える中村教授と研究室の、プロジェクトの成否を握る新しい挑戦は今、はじまったばかりです。(写真右)ヤマサ食料倉庫の梁に設置されたネズミ監視カメラ。高所から全域を俯瞰で捉え、ネズミか否かをAIが判断する。(写真左)その確率が設定値以上になった場合、位置情報をクラウド上に送信する。ヤマサは創業150年を誇る老舗企業、歴史・伝統+DXという考え方がすごい。今回のプロジェクトに携わったのは、2021年に立ち上げた総務部デジタル推進課です。それまで弊社はDX化に関しては非常に遅れていて、基本的な財務処理さえ紙媒体で行っていました。生産性が悪いことは明らかだったので、思い切ってエンジニアを雇用しました。外部に委託するのではなく、自社にエンジニアがいてくれることで、物事をスムーズに進めることができ、社内のDX化だけでなく、AIによる画像検知という領域にまで一気に広げることができました。弊社は、祖業として約150年に渡りコメを取り扱っています。取引先のコメ農家の悩みの種となっているネズミ問題に対して、DXで解決策を見出せないかと考えたことが今回のプロジェクトを立ち上げたきっかけでした。しかし、AI技術でネズミを検知することができても、追い払うことができなければ意味がありません。そこで、弊社だけでは解決には至らないと思い、昨年の秋頃に信州大学に共同研究の依頼をしました。 結果、産学連携のプロジェクトとして弊社を含む3者が協力する体制となりました。ドローンの制御技術は松本工業高校、3Dマップでのドローンの最適なルート検索は信州大学、そしてAIカメラで倉庫内を俯瞰で捉えてネズミを検知し、その座標情報を送信するのが弊社の役割です。弊社だけでは対応しきれない問題に、3者が持つそれぞれの技術を連携させることで、先進的な解決策を生み出すことができました。完成後はネズミ以外の鳥獣害対策にも応用していくほか、ネズミが多く発生する農家の倉庫でもカメラを設置するだけで利用できるようなクラウドサービスを提供していきたいと考えています。また、ネズミの生態や駆除法に精通している事業者との連携も検討しており、これが叶えば、ドローンの駆除性能を更に向上させることができるという、今後に対する期待感も抱いています。株式会社ヤマサ代表取締役社長北爪 寛孝 氏05産学連携、高大接続の新鳥獣害対策プロジェクト誕生!「設計工学」による最適化が成否を握る3者が目指すシステムを簡単に説明すると、まずコメ倉庫に動くものをカメラが検知→すかさずAIがネズミかどうか解析し、ある一定の確率を超えた場合には専用のクラウド上に位置情報をアップ→クラウドにアクセスしたドローン発着ステーションが、待機中のドローンに3Dマップに基づいて事前に作成された何十通りもの中から最適なルートを指示→ドローンが最速かつ効率的にネズミに近づき、プログラムされた示威行動を行う、というのが一連の流れです。もちろん任務を終えたドローンはステーションに戻り、次の任務に備えて充電、待機します。ネズミvs.AI×設計工学×ドローン「三人寄れば文殊の知恵」。産学連携で問題解決を果たしたい

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