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う問題が指摘されていました。従前は、細胞を多孔質材料に封入する方法として、浸漬という表面上に播く方法やグロースファクター(成長因子)により中に誘引する方法などがとられてきました。しかし、浸漬ではなかなか材料の内部にまで細胞が行き届かないこと、成長因子は非常に高額であることなどが問題視されてきました。浸潤不全を解決した新発想これらの課題を一挙に解決したのが、「真空加圧含浸法」と呼ばれる技術です。これは、浸潤させたい材料の周囲を真空真空容器を使った、ポリ乳酸材料への溶液浸透状況を比較した実験。真空容器からポリ乳酸材料を取り出してみると、赤く染まっているのが一目瞭然でわかる。状態にして液体を注入し、加圧することで材料の隙間にその液体を導入するというもの。短時間で確実に中まで液体をしっかり浸透させることができるため、主に金属や食品の加工に使われてきました。と同時に、①細胞の生存に対する心配が不要、②既存手法よりも簡単で大幅な時間短縮が可能、③比較的小さな孔径の材料にも導入可能、という3つの特徴も確認できました。真空加圧含浸法は、これまで液体を固体に浸潤信州大学と大学が持つ特許を管轄する信州TLOとのコラボで制作した、特許技術「見える化」映像シリーズ第7弾の紹介映像もご覧ください。これを「細胞という固体に応用し、生体材料に使ってみよう」というのが根岸 淳准教授の新発想でした。根岸准教授は学生時代に、真空加圧含侵で作られたチョコレートがしみ込んだイチゴのお菓子から、「圧力だけなら、細胞が死なないで材料が届けられるかもしれない」とこの技術の応用を思いついたそうです。早速、試験してみた結果、細胞は見事、生きたまましっかり多孔質材料に導入され、その後の培養でも細胞の増殖が確認できました。多孔質物質の孔に、どうすれば効率的に細胞を封入できるかという課題を解決する道筋ができた瞬間でした。する形でしか使用されたことがなく、細胞という固体を足場材料という固体に浸潤する使用は世界でも初めてで、かつ固体の細胞が生きたまま存在したのはまさに画期的だったと、根岸准教授は振り返ります。多孔質材料入りの圧力キットの設計も進行中根岸准教授のチームでは、現在、多孔質材料を耐圧容器に入れ、そこに細胞を投入するだけで即、浸潤を試せるようなキットの設計を進めています。このキットにより、複合化生体材料や3次元組織の再生用材料の研究、細胞機能の解析手法など様々な用途で活用いただけると根岸准教授。今までは2次元培養で行われていた実験後、すぐに動物での実験となっていたこれまでの様々な試薬の実験に、このキットを用いた多孔質材料での3次元培養による実験を挟むことで、より実際の人体に用いた場合に近い実験結果を導き出すことができ、効率的な創薬が可能になることが想定されています。「この特許は、複合化生体材料、3次元組織の再生用材料、細胞機能の解析など多種多彩な用途で活用できる画期的なものです。現在、設計しているキットも、試薬メーカーや研究開発関連会社の生体実験などにご利用いただけると考えています」人体の中で作り出される生体物質を利用したバイオ医薬品の開発とそれによる市場拡大、iPS細胞に代表される新たな治療法である「再生医療」の実現化に向けた研究開発などにも、根岸准教授のこの特許が開発における基盤技術として当たり前に使われる日はもう目の前です。12

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