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近年、地震や台風などの自然災害が激甚化し、その頻度も増えています。他県に比べ自然災害が少ないと思われてきた長野県でも、2019年の千曲川の氾濫では大きな被害がありました。自然災害に対処するためには、被災の記録と記憶を遺し、次の世代へと教訓を引き継ぐことが重要です。こうしたことから、未曾有の被害をもたらした2011年の東日本大震災をきっかけに、震災の記録と記憶をアーカイブとして遺す取り組みが全国で盛り上がりました。ただ、「多くのアーカイブは、あまり活用されていないのが実情」と信州大学地域防災減災センター防災減災教育部門長の廣内大助教授は話します。記録すること自体が目的になり、活用まで見据えた取り組みがなされていないというのです。そのため、廣内研究室では、2014年11月22日に長野県北部で発生した神城断層地震の災害調査に関わったのをきっかけに、“活用される”震災アーカイブづくりに取り組んでいます。廣内研究室が、“活用される”アーカイブのために取り組んだことは大きく3つあります。その1つ目がデジタル化です。従来の災害を遺す取り組みは紙によるア震災の被害状況や人々の経験を記録し防災に活かす「震災アーカイブ」――。その先進事例として大きな注目を浴びているのが、信州大学教育学部 廣内大助研究室の「神城断層地震震災アーカイブ」の取り組みです。多くの震災アーカイブの記録の収集・保存の取り組みに対し、廣内研究室ではそこから一歩踏み込み、“活用される”仕組みづくりを構築。その結果として小中学校の防災教育や住民の生涯学習に貢献しています。従来とは異なる“活用される”仕組みづくりとはどういったものなのか、国内でも珍しい取り組みを行っている「神城断層地震震災アーカイブ」に迫ります。(文・佐々木 政史)ナログ形式のものが多くを占めていましたが、地域住民が手軽に活用しづらい問題がありました。こうしたなか、廣内教授は「そもそも震災アーカイブは地域住民の防災に役立てることを目的とするものであり、誰でも簡単に分かりやすく正確な情報にアクセスできることが重要」と考え、デジタルデータで情報を保存する「神城断層地震震災アーカイブ」の作成に2017年から取り組んでいます。これは、Web-GISというオンライン地理情報システムを活用したもので、Googleマップのようにオンライン地図上に様々な情報を付加していくことができます。神城断層地震震災アーカイブでは、この機能を活用し、特徴的な被災場所をオンライン地図上に登録。マウスでそのポイントをクリックすると、その場所の被災時の状況を記事や写真、インタビュー動画などで確認することができます。「特に関心が高いトピックスとして、子育て世代の母親など、災害時に弱者となりやすい人の声も意識的に集めた」と廣内教授は強調します。また、ワンクリックで、発災時、復旧期、復興期ごとに、情報を時系列で整理し、切り替えて見ることもでき、まさにデジタルアーカイブならではの特徴と言えるでしょう。アーカイブサイトから動画や写真を見ることができる小学生のフィールドワークの様子2004年 愛知工業大学地域防災研究センター研究員2007年 信州大学教育学部准教授2014年 信州大学教育学部教授2022年 信州大学防災減災センター防災教育部門長 廣内研究室が震災アーカイブの活用で取り組んだ2つ目の仕掛けが、小中学校の防災教育での活用です。地域の防災力を向上させるためには、災害の記憶を、次世代を担う子どもへと伝えることが重要です。そのため、廣内研究室では2018年から白馬村や小谷村の小中信州大学地域防災減災センター 防災減災教育部門長信州大学学術研究院(教育学系)廣内 大助 教授大糸タイムス発行2014年11月24日2014年神城断層地震震災アーカイブサイトhttps://kamishiro.shinshu-bousai.jp/09小中学校の防災教育で活用“四方よし”の取り組みに神城断層地震震災アーカイブで小中学校の防災教育や住民の生涯学習に貢献信州の震災の記憶を次代へ引き継ぐ記録だけでは終わらせない“活用される”震災アーカイブを

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