Q佐藤:先日ホームページを見てみたら、VRで見学できるようになっていて、びっくりしました。画面上で歩けば現場が見られるという、なんだかすごい世界ですね。山田:VRの導入を思いついたのは、2年前です。新型コロナの影響で開館できない時期が続き、このままだと当館の存在意義が薄れてしまうのではないかと危機感を抱きまして。以前、収蔵品の3Dデータの作成でお世話になった企業がVRを手掛けていたのでお願いし、今年3月に撮影を行いました。撮影の数日後には出来上がってきたので、こんなに簡単にできるんだと驚きました。佐藤:展示室に小上がりになったスペースがありますよね。私はあそこを歩くコースが好きなのですが、そこも見ることができました。山田:いちばん奥の剥製のところですね。子どもたちの見学でも、ステージの上にある展示棚に近づけるので人気の場所です。VRでは館内を自由に体験できるよう、普段まわれるところは一通り見られるようにしました。子どもの目線も取り入れたかったので、同じ地点で高い目線と低い目線の2つで撮影してもらったところもあります。佐藤:見どころとしては、やはり信州を代表するライチョウ。あとは、高山植物。今では採れない貴重な高山植物の標本があるので、ぜひ多くの人に見て楽しんでいただきたい。山田:展示の中には、私が長野県内で見つけたダイカイギュウの肋骨の化石もあります。ジュゴンやマナティの仲間ですね。その発掘現場の近くで昔の信大生が発見したシンシュウゾウの化石も展示しています。また、絶滅危惧種のアルマジロのハンドバッグや、カモノハシの剥製などが所々に潜んでいて、触ることができるのも当館の魅力の一つだと思います。佐藤:展示物を見ながら、信州大学の自然Q山田:科学館の役割として、教育や社会貢献に向けた働きかけも重要だと感じています。佐藤:学外からの最初の来館は、地元の高校生の見学会だったと記憶しています。印象に残っているところでは、大雪山の父と呼ばれた小泉秀雄さんの標本があるということで、古本屋協会の山岳関係の方が訪ねてきました。彼の標本のほとんどは国立科学博物館に収蔵されているので、小泉秀雄さんの名を表に出した展示を見て、とても珍しがっていました。山田:今は新型コロナのため、来館者は予約のうえ少人数で来てくれています。先日は、高校生のグループが環境やSDGsに関係する場所を選んで勉強しに行くという、探求学習の一環で訪ねてくれました。「こんな所があったんだ!」と言いながら、興味深そうに見学していましたよ。また、別の高校生が理学部と連携した合同講座を受講したり、静岡大学教育学部の附属中学校の見学先に選ばれたりと、教Q佐藤:先頃、東城幸治教授(学術研究院理学系・第2代館長・現副学長)が、信州大学の学章のモチーフにもなっているコマクサの進化を遺伝子解析で解明したと伺いました。その研究でも信州大学自然科学館の資料が役立っていたそうですね。山田:古いコマクサの標本やライチョウの剥製が、遺伝子解析の研究に活用されて今では入手できない貴重な野生動物の剥製が一同に揃う。科学研究の歩みを遡ると、前身校の一つである松本女子師範学校の矢澤米三郎初代校長(※)に行き着きます。矢澤先生が集められた当時の資料が、動物関係の資料の軸になっているんです。ご本人はライチョウの研究者でしたが、お弟子さんには鳥だけではなく植物も自由にやっていいよということで、それが後の長野県植物研究会の発足につながりました。ですから、矢澤先生が動物と植物の両方の根幹を作ったといえます。(※)今回別誌面で紹介していますので是非ご覧ください。育に活用される機会も少しずつ増えています。佐藤:本物を見て学べる場所というのは、やはり大切ですね。山田:6月から10月までは、火曜日と土曜日に定期開館をしています。学生スタッフが持ち回りで対応し、当館のブログの更新も行います。ブログには展示物の紹介などを載せているのですが、時々詳しい学生がいて、「へぇ、こんなことを」というようなネタを書き込むと、ポーンとアクセス数が増えるんです。05VRでバーチャル見学、イチ推し展示物は?教育・研究はもとより、社会貢献に役立つ施設にこれからの自然科学館の運営ビジョン、課題など信州大学自然科学館 開館10周年記念企画:新旧館長対談自然科学という伝統と宝物。いつの間にかVRでバーチャル見学も…、びっくりしました!(佐藤)
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