Natural science special featureShinshu University西駒演習林の林床(上)と天井開放型の温室(下)での実験ホソコバネナガカメムシに寄生するナガカメネジレバネの雄の囲蛹(矢印)信州大学自然科学特集17低地では目立たないコケも、山岳では地面を広く覆い、水や栄養分の循環に大きな役割を果たしています。しかし、コケはその単純な体のつくりから環境の変化に敏感で、温暖化などによってその分布は大きな影響を受ける恐れがあるとされています。そこで、研究チームは信州大学農学部附属アルプス圏フィールド科学教育研究センターの西駒演習林において、人為的に気温を上昇させる実験を行い、温暖化がコケに与える影響を検証しました。実験は、亜高山帯に生育するコケと高山帯に生育するコケの2種類が分布する、亜高山帯から高山帯への移行帯である森林限界で行われました。6年に及ぶ加温実験の結果、温暖化処理区では亜高山帯に分布するコケが増加し、その一方で、高山帯に分布するコケは大きく減少しました。コケは森林生態系の中で水や栄養分の循環に大きく関わっており、温暖化による山岳のコケの組成の変化は、森林全体の多面的・公益的機能に影響を及ぼす可能性があることを示唆しました。今回の研究成果は、小さなコケから温暖化が森林全体に与える影響を考える、大きな一歩といえます。信州大学理学部生物学コースの中瀬悠太特任助教、信州大学理学部生物学コースの卒業生の福桝友一朗、石本夏海、日本学術振興会特別研究員PD(東京大学)の田路翼(研究当時:信州大学理学部生物学コース博士課程)、信州大学理学部生物学コースの市野隆雄教授は、ナガカメネジレバネは過寄生(1個体の宿主に複数の寄生者が寄生)となった時に早く成長する特殊な生活史を持っていることを発見しました。通常であれば宿主のカメムシであるホソコバネナガカメムシと同様に、ナガカメネジレバネは1年で1世代の生活史を持っていますが、過寄生になったものでは成長が早くなり数か月から半年で世代を回すようになっていました。その結果、通常であれば春から夏にかけて出現する成虫が冬に出現します。同じ宿主に寄生してしまったネジレバネ同士が成虫になれる機会を巡って競争するために成長が早くなる現象が起きると推測されました。過寄生は稀な現象でないばかりか生活史を大きく変えてしまうきっかけになることが示されました。今後過寄生という現象に注目が集まり研究が進むことでさらなる発見が期待されます。小林元准教授が参加する研究チームが地球温暖化がコケに与える影響を解明信州大学学術研究院(農学系)小林元(はじめ)准教授が参加する研究チーム(福井県立大学、信州大学、筑波大学、東京大学)は、地球温暖化によって山岳のコケが減少する恐れがあることを明らかにしました。中瀬悠太特任助教を含む研究グループが複数寄生になると成長が早くなるネジレバネを発見
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