Natural science special featureShinshu Universityノザキタニガワラトビゲラ種内の生殖器官における形質置換現象背後にある別のクェーサーのスペクトルを用いると、手前にあるBALクェーサーの横方向(接線方向)のガスの電離レベルを調べることができます。(©2022 信州大学)信州大学自然科学特集16信州大学学術研究院(理学系)東城幸治教授を代表とする研究グループが、トゲタニガワトビケラ属の昆虫を対象にDNAバーコード領域(ミトコンドリアDNA COI領域)と次世代シーケンサーを利用したGRAS-Di解析(ゲノムワイドな核DNA 16,254座位のスニップSNPs:一塩基多型解析)を行い、信頼性の高い系統進化史を究明しました。また、対象種のうちノザキタニガワトビケラ種内では、生殖器官における「形質置換 character displacement」現象を明らかにしました。側所的に分化した遺伝系統群同士が二次的に接触する地域では、系統間での交尾器形態が大きく分化していることを示したものです。この現象は、異なる遺伝系統同士での交雑を回避するための適応と考えられ、種分化の移行段階を示すユニークな現象といえます。この研究成果は英国(ロンドン・リンネ協会)の動物学の専門誌 Zoological Journal of the Linnean Society に掲載されました。信州大学学術研究院(総合人間科学系)の三澤透教授らのグループは、遠方宇宙に存在する明るい銀河の中心核の内部構造が、周囲の広大な領域に分布するガスに対して「非等方的」な影響を与える可能性があることを世界で初めて突き止めました。遠方宇宙に存在する銀河中心核(クェーサー)は強力な紫外線を放射するため、銀河周辺に存在する水素ガス(銀河間ガス)を電離します。この紫外線放射が等方的であれば、銀河周辺ガスの「電離され具合(電離レベル)」は方向によらずに一定になるはずです。ところが先行研究では、電離レベルが偏っていることが報告されていました。そこで本研究では、紫外線放射の方向がある程度推測できる「BALクェーサー」と呼ばれる特殊な天体をターゲットとすることで、その原因を探りました。具体的には、背後にある別のクェーサーを観測することで、手前にあるBALクェーサーの横方向(接線方向)のガスの電離レベルを調べました。既存のデータに加え、すばる望遠鏡による新規観測を行った結果、クェーサー内部に存在するドーナツ状の遮蔽構造(ダストトーラス)が、電離レベルの非等方性を引き起こしている可能性が高いことを突き止めました。ダストトーラスは、クェーサーの標準的なモデルに不可欠な構造です。今回の結果は、ダストトーラスの存在を観測的に支持するとともに、その影響が遠く離れた銀河間ガスにまで及ぶ可能性があることを示唆します。また宇宙全体の電離の歴史や、クェーサーの内部構造を探るうえでも重要な結果といえます。トビケラ目昆虫を対象に分子系統解析による系統進化史と「形質置換」現象を究明クェーサーが周辺ガスに与える「非等方的」な影響の謎を解明東城幸治教授を代表とする研究グループが三澤透教授を代表とする研究グループが
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