古の山岳ロマン「北アルプス1万mの幻の火山」信州大学特任教授 原山 智 (山岳科学研究領域)©NHK竹脇 聡 さん信州大学教育プログラム自然環境診断マイスター養成2期生名古屋大学 大学院環境研究科 附属地震火山研究センター 御嶽山火山研究施設 研究協力員/御嶽山火山マイスター02自然科学特集スピンオフコラム01自然科学特集スピンオフコラム引き継いだ信大の学びと築いた人脈が宝物御嶽山火山マイスター竹脇 聡さんに聞く筑波大学で近代農業について学んだものの、そのあり方について、社会人になってからも漠然とした疑問を持ち続けていた竹脇 聡さんは、胸の奥にくすぶっていた想いを見つめ直すべく、2008年5月からの5カ月間、信州大学の社会人教育プログラム「自然環境診断マイスター養成」を受講した人物。資格も認定されています。しかし、その道のりはかなり険しかったご様子。同期の受講生は専門的知識を持つ人が多く、プログラムも大学院修士レベルとあって「受験生だった息子以上に勉強していた」とおっしゃいます。でも、そんな苦しい時に力になってくれたのが共に学んだ同期の仲間たち。苦労を分かち、マイスターとなった縁は今も続き、旧交を温めるだけでなく、現在の竹脇さんのお仕事にも役立ってくれているその資格に加えて新たに長野県の事業による御嶽山火山マイスターの資格も取得した竹脇さんは、去る8月27日にオープンしたばかりの「木曽町 御嶽山ビジターセンター」で火山防災の普及啓発と御嶽山の魅力を発信する仕事をされています。一方で木曽町環境協議会のメンバーとして、2010年から、主に地元に暮らす方々に木曽の自然の素晴らしさを再認識してもらう「きそネイチャーマイスター養成講座」を開講。カリキュラムは信州大学の養成講座をベースに、子供たちにも分かるようアレンジしたものだそうです。信州大学理学部の先生も講師として協力している同講座は今や大人気。信大の自然環境診断マイスターが、その「学び」をしっかりと次世代に繋いでいます。(文・中村光宏)そうです。いにしえ132020年放映のNHKのジオジャパンⅡは、300万年前以降の日本列島における地殻変動に焦点を当てました。この間に中部山岳地帯の山の多くが誕生したのです。3ヶ月にわたるロケ現場として選ばれたのは、北アルプス槍穂高連峰と爺ヶ岳でした。なんで爺ヶ岳?と思われる方もいるでしょう。五竜岳から爺ヶ岳を経て蓮華岳に至る範囲では、220-160万年前に巨大カルデラ火山が噴火を続けていました。カルデラ湖が形成され、湖には厚さ150m以上の火山灰が堆積して水平な地層を形成していました。ところが爺ヶ岳に露出している地層は、現在ほとんど垂直なのです。調査を進めた結果、爺ヶ岳にとどまらず、厚さ4kmの火山岩層と直下にあったマグマ溜まり6kmの計10kmが横倒しになっていることが判明したのです。北アルプスの隆起が160万年前以降に激しさを増したことを意味しており、これは200万年前には既に山脈として完成していたとする従来説を覆す成果でした。「もし侵食作用がなければ、北アルプスにもエベレストを超える1万メートルの山があったのに…」と呟いたのをNHKのディレクターは見逃しませんでした。「そ、それ、CGにしましょう」。こうして生まれたのが地下10kmまでのマグマ溜まりをも巻き込んで回転隆起していく幻の1万m火山、クルリンパです。番組は何回も再放送され、2021年の元日の夜、ゴールデンタイムにも放映されました。
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