キルギス共和国におけるアルガリの群れその活動は地域と密接に結びついており、獣害に対し、駆除ではなく、どのような対策をすべきか、ということを伝え続けてきました。また小中学校等でも、ツキノワグマの生態について理解を深めてもらうため、自らも製作に携わったハンドブックを配り、講習会を開くなどの普及啓発活動を行っています。「何も知らなければ、ただ怖いだけですが、正しく知ることで、何に気を付ければ良いかがわかります。そのための手助けができたら、クマにとっても人にとっても良いですよね」と泉山教授。自然豊かな信州の地では、その分獣害も多くなりますが、自然との共存を訴え、そのための手段を追求し続けます。華々しい賞や評価よりも人と自然がより良く関わり合う姿を目指して山岳科学研究拠点では、県内をフィールドとした調査研究だけでなく、研究・教育の国際交流も盛んに行われています。(新型コロナウイルスによって海外への渡航が制限されていなかった)2019年には、海外の9つの国と地域において、国際研究や、知的・人動物につけるGPS発信機1981年 麻布獣医科大学卒業1981年 京都大学霊長類研究所研究員1988年 株式会社野生動物保護管理事務所2004年 岐阜大学大学院連合農学研究科修了2006年 信州大学農学部附属アルプス圏 2010年 信州大学農学部附属アルプス圏 2022年 信州大学先鋭領域融合研究群山岳科学研究拠点長フィールド科学教育研究センター技術交流・普及部准教授フィールド科学教育研究センター教授的交流を行った実績を持ちます。「先進国だけでなく、発展途上国や小さな国々とのやり取りがあるのは、他の研究拠点と比べ珍しいことです」(泉山教授)泉山教授自身、2008年から15年間にわたり、キルギス共和国における希少野生動物や、環境問題に関する研究を行ってきました。同国においては、中央アジアで初めてヒグマの生態捕獲に成功し、GPSを用いて行動追跡調査を実施。また、センサーカメラを用いて野生動物を観測し続けた結果、その地域の密猟が激減し、減少し続けていたアルガリ(羊の原種)が、少しずつ戻ってきているといいます。「自然相手のことなので、すぐに問題解決に至らないことも多いですが、こうした結果は地域のレンジャーの方たちにも喜ばれていますよ」と泉山教授。キルギス国際大学や、キルギス科学アカデミーとは交流協定を結び、その関係は今も続いています。「農学は、問題解決の学問。ノーベル賞を目指すのではなく、地域が少しでも良くなることを考えます」と話すその言葉通り、海外でも、信州でも、地道に時間をかけて地域の課題と向き合ってきたその研究は、多くの人の暮らしを支えています。PROFILE信州大学学術研究院(農学系)教授信州大学先鋭領域融合研究群山岳科学研究拠点長フィールドで活躍する信州大学先鋭領域融合研究群山岳科学研究自然科学マイスター11信州大学の先端研究を担う先鋭領域融合研究群の1つ、山岳科学研究拠点。研究ジャンルは、山岳生態系や、地形地質・防災研究、森林資源など、多岐にわたります。「研究フィールドや地域との近さが本学の最大の特徴であり魅力。ここには山の科学ができる精鋭が集まっています」と話すのは、拠点長を務める信州大学学術研究院(農学系)泉山茂之教授。研究拠点のすぐ近くに演習林や農場など多くのフィールドを持つという、信州大学ならではの特徴を生かした様々な研究が進められており、「こうした研究の成果を、地域に還元していくことも組織の目標の1つ」だといいます。山岳科学研究拠点で進める、泉山教授の研究について、お話を聞きました。ツキノワグマに付けた発信機のデータからは、その個体がどのような経路で集落に近づくのかを調べられます。これを受けて、クマと人との予期せぬ接触や、畑の食害などを減らすため、具体的にどこでどんな作業(その個体が身を隠す場所を減らすために移動経路の草を刈り払うなど)をすれば、地域の問題を解決できるのかを考えるといいます。「野生動物は、駆除したところで被害がなくなるわけではありません。また別の個体がその場所に来るだけです。排除するのではなく、対応することが大切です」と、泉山教授。野生動物との共存を追求する泉山教授の専門は、山岳環境保全を目的とした野生動物の長期生態研究です。例えばツキノワグマは、ニホンジカやニホンザルと共に、長年研究対象としています。取材日にも「今朝、一頭GPSをつけてきたところです」とさらりと教えてくれました。山岳科学研究拠点山岳生態系研究部門の活動世界のフィールドで自然環境と人の暮らしとの関わりを見つめ続けて泉山 茂之 マイスタ自然科学の魅
元のページ ../index.html#12