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10林イグネル小百合さんの記事は、インタビューの一部です。全文はhttps://www.shinshu-u.ac.jp/zukan/で公開しています。実は、北欧の音楽に衝撃を受けた!というわけではなく、アーティストもスウェーデンといったらABBAくらいの知識でした。大学時代にフィンランドの音楽教育を研究テーマにしている同級生が持っていたフィンランドの音楽の教科書を初めて見たとき、衝撃を受けました。かっこいい曲!という(笑)。途中で変拍子になったり、転調したり、楽譜自体は難しいのですが、デザインや挿絵も子どもっぽくなくおしゃれで。こんなかっこいい音楽を子どもの頃から歌ってるのか、と興味を持ちました。当時ジャズに興味があり、コードを使った音楽教科書の提案、みたいなのをテーマに研究しようかなぁと思っていたところだったので、日本の音楽の教科書に出てくる楽曲を比較すると、コードやリズムの複雑さが全く違いました。その後、北欧でも特にスウェーデンは、当時だとバックストリート・ボーイズ、ブリトニー・スピアーズ、ジャスティン・ビーバー、レディー・ガガ等、洋楽ヒット曲を生み出しているプロデューサーの出身国だとなんとなく知って。フィンランドの音楽教育に関しては既に文献があったのですが、スウェーデンという国については日本語での情報がほぼないので、漠然と面白そうだなと思いました。卒業後、スウェーデンに音楽留学されたんですね大学卒業時の進路状況表みたいなので、〝就職■〝教員■〝進学■欄があるのですが、〝その他■1名と記載された欄があり、その1名でした(笑)。進学のはずなのですが、合格通知書類のようなものがなく提出できなかったので、その他になってしまったみたいです。その時も不安は少しありましたが、ワクワクのほうが大きかったです。スウェーデンに来た当初、英語でなんとか生きていけるだろうと甘い考えだったのですが、実際は先生も生徒もスウェーデン人なので日常会話はスウェーデン語のみ。スウェーデンは世界的にみても英語が最も流暢な国なのですが、ピアノレッスンだけ英語で、それ以外はスウェーデン語でした。授業はまだしも、寮生活はスウェーデン人音楽家20人ほどとシェア生活だったので、最初は日々葛藤でしたね。あまり覚えていませんが、なるべく共用キッチンに座って、言葉を聞き取ってメモしたり、課題を教えあったり、と毎日脳をフル回転していました。友人には恵まれていて、一生懸命さが伝わったのか皆助けてくれたし、音楽を通してコミュニケーションをとることができたのでラッキーでした。それまで日本では、割と自分で選択し、自己解決する傾向があったのですが、移住後は言語や文化が分からず絶対に一人では太刀打ちできないような状況になることも多く、〝教えてほしい、手伝ってほしい■と、ちゃんとできないことを認め、周りにヘルプを求められるようになっのは、その後の人生に生きる最も大切な経験だったと思います。初日から、コンサートのためのアンサンブルチームを作りましょうと、声楽の子と組んで伴奏をすることになり、その後もソロ演奏や室内楽、地元のオーケストラ団体とピアノ協奏曲を演奏する機会を頂いたり、月に1回は何かしらの舞台で演奏することが多かったです。理論の授業はジャズの子たちと受けていて、そのころ即興演奏や、電子楽器に興味を持つようになりました。在学1年目の最終日に名誉学生として選ばれ、奨学金を頂きました。頑張っていればちゃんと見てくれている人がいるということを実感し、すごくうれしかったです。ノーベル博物館にも音楽作品を出品されたそうですねノーベル平和賞のための音楽制作は、自分の様々な創作のキーワードが〝境界線■と気づく作品になりました。当時働いていた小中学校は移民2世の子どもたちが多く、休み時間は何言語も飛び交うのが日常だったのですが、受賞されたマララさんの国連スピーチの言葉を、子どもたちの声でレコーディングし、多言語で表現しました。コンセプトは既にあってそれを音で解釈するというプロジェクトがすごく楽しかったし、歴史あるノーベル博物館に音が展示されて、世界中の人に聴いていただけたのも光栄でした。信州大学をめざす高校生、受験生にメッセージを正直、知識を得ること自体はネットにいくらでも情報があふれており、今から未来は特に大抵のことは独学でクリアできる場合が多いと思います。ただ、実際の体験談を人から聞くことや、言葉で表現できないような思いや体験をすること、たくさんの価値観に触れることで、自分がどういった考えをもっている人間なのか、何が好きでどんなことで怒るのかなど、フラットに人と付き合える大学生活では、多くの気づきがあると思います。自分が情熱を注げることに夢中になってみること、自分の中に違和感を感じた時は無視しないこと。どんな人も物も場所も多面性があるので、迷いながらも、自分の心が心地よいと思える瞬間を増やしていくこと、人との出会いや感動や情熱を増やすことができれば、大学生活をより充実して過ごすことができるのではと思います。北欧の音楽との出会いを教えてくださいSAYURI HAYASHI EGNELL福井県永平寺町生まれ。3歳からクラシックピアノを始める。2010年、信州大学教育学部学校教育教員養成課程芸術教育専攻音楽教育分野卒業。映画、CMなどの音楽作品多数。映像や空間美術など他ジャンルと融合した音楽に定評がある。ストックホルム在住。YouTubeで北欧暮らしのチャンネルを運営中。来年はBIWAKOビエンナーレにも参加予定だ。「現在3歳の娘がいるので家族との時間を共有しながら、形態にとらわれず一つひとつ、作品を作り続けていきたいと思います」

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