NOW133
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ブランドア㈱ 代表取締役(元電通) 海の中では、捕食者のシャチやアザラシが待ちかまえているかもしれない。実は、エサがない海なのかもしれない。さあ、どうしよう? それでも飛び込むのか? 氷上でウロウロするペンギンの群れ。その時、真っ先に飛び込むのがファーストペンギンだ。未知の研究領域に勇気をもって先陣を切って飛び込む。誰も開拓していない分野を試行錯誤しながら進んでいく。挫折や失敗は当たり前。障害にぶつかったら、回り道も自分で見つけなければいけない。それでも未開の海に挑む研究者たち。「信州のファーストペンギン」と銘打って動画を配信し始めたのは2019年の秋。以来続くシリーズになったのは、それだけ信州大学にはファーストペンギンがたくさん生息しているから。その一点の理由に尽きる。「信大NOW132号」では、ナビゲーターを務めている五十嵐さんが、各先生の簡易レポートを寄せてくれている。それでも全体のほんの一部に過ぎない。この先に紹介したい先生のリストは着々と埋まっていく。取材に同行すると各先生方が共通にお話になることがある。「信大という環境、信州という環境にいるからこそ、研究は続き、成果があがるのです。ここを離れるつもりはありません」。見つめる眼の先には、アルプスをはじめとした山々がある。ずっとその言葉が気にかかっていた。山や緑に囲まれて静かだ。それほど人は多くはない。通勤電車を使わなくても良い。研究に集中できる環境が揃っているんだろうな。漠然とそう考えていた。私は東京に住んでいる。取材のたびに信州に出向く。松本、長野、上田、伊那・・・どこへ行っても心が落ち着く。視界の先に山がある。包まれている安心感がある。ある時に気がついた。ファーストペンギンの先生方は、あの山々の先に何があるんだろうと考えているんではないか? いや、本能的に山の向こう側を見たくて、想像力はとっくに山を超えようとしているんじゃないか? 高い山に囲まれているからこそ、そこに安住するのではなく、超えていく展望を持っているのではないか?東京にいると、視界の先にはビルしかない。想像力が働く余地はない。信州は山に囲まれていて安心、などと言うのは、たまに訪れるひ弱な都会人の感想に過ぎない。信大の先生方は逞しく超えていく指針として山を感じているのではないのか? 意識するしないは関係なく、高みの向こうを感じようとしているのではないか?コロナ禍は続き、ヨーロッパでは侵攻が起こり、地震は各地で頻発する。ダーバーシティ、ジェンダー、SDGsといった概念は急速に浸透していく。明日はどこに向かっているんだろう? まさに海図なき航海の時代。必要なのはそういった要素を逞しく吸収し、超えていく知ではないのか? 山を見つめ、山の向こうに思いを馳せ、超えていく。次々と生まれてくる信大のファーストペンギンたち。山に囲まれた地は、山を超えていく知を育んでいる。信州大学は学外の広報有識者に広報アドバイザーとして、広報活動への助言・指導など、多彩な協力をいただいています。1985年 ㈱電通入社 以来クリエーティブ局2008〜2013年 上海電通赴任2014年 ブランドア㈱創設2013年〜 上智大学講師「メディアと社会(広告論)」13信州大学広報スタッフ会議外部アドバイザー藤島 淳氏 ⑮山が、ペンギンを育てる。

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