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図形の切れ込みが化合物結合部位である隙間・ポケットをあらわしており、この隠れた結合部位を見つけ出せれば「創薬不可能=アンドラッガブル」な疾患標的タンパク質も「創薬可能=ドラッガブル」となる。生きた細胞内と同じような環境を試験管内で実現することに成功した。病の多くは、体内にあるタンパク質の異常によって起こります。薬で病気が治るのは、薬に含まれる化合物が異常を来したタンパク質と結合し、その機能を阻害するからです。そのため創薬は、病気に関連するタンパク質=疾患標的タンパク質に結合する、薬の候補となる化合物を見つけ出すことから始まります。疾患標的タンパク質に化合物が結合するには、入り込むポケットのような隙間が不可欠。しかし、疾患標的タンパク質の中には、そもそも表面に起伏がなく化合物が結合できなかったり、特殊な構造を持っていたりするために、「創薬不可能=アンドラッガブル」とされて創薬不可能(Undruggable)な疾患標的タンパク質を創薬可能(Druggable)にする新技術、それが今回ご紹介する「温度ジャンプ」です。信州大学大学院総合理工学研究科(農学専攻)喜井勲教授、先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所 梅澤公二助教、大学院総合理工学研究科(農学専攻)修士課程 古家岳さんが提案する、創薬の新しい概念です。2021年3月に開催されたNEDO TCP 2020(※1)最終審査会において、NEDO認定ベンチャーキャピタルの投票によって選定される「認定VC賞」を受賞し、創薬関連企業との連携を積極的に進めています。(文・柳澤 愛由)(※1)2021年3月9日開催、国立研究開発法人新エネルギー・産業技術総合(NEDO)主催「NEDO TCP(Technology Commercialization Program)2020」いるものが少なくありません。有効な薬のない病気が未だ数多くある理由のひとつです。このような創薬の課題を解決する概念を、信州大学大学院総合理工学研究科(農学専攻)喜井勲教授らが見出しました。「試験管内ではアンドラッガブルな疾患標的タンパク質も、生きた細胞の中では『創薬可能=ドラッガブル』な状態になることがあると考えられます」と喜井教授は話します。今回ご紹介する特許技術「温度ジャンプ」は、「温度を上げる」というシンプルな方法で、試験管内で一時的に生きた細胞内と同じような環境を作り出し、「アンドラッガブル」とされていた疾患標的タンパク質を「ドラッガブル」に変える新しい創薬概念です。2005年、東京工業大学大学院生命理工学研究科博士課程修了。理学博士。理化学研究所科技ハブ産連本部ユニットリーダーなどを経て、2019年、信州大学農学部・大学院総合理工学研究科農学専攻 准教授着任。2020年より現職。信州大学先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所 信州大・理研BDR研究連携室・併任教員信州大学学術研究院(農学系)農学部・大学院総合理工学研究科(農学専攻)創薬標的科学研究室 〈コンセプト立案・総括〉ここで喜井教授は、生きた細胞内ではタンパク質が立体構造を形成していく過程で、熱力学的な構造の“揺らぎ”が起きていることに注目しました。つまり、立体構造が揺らいだ準安定で過渡的な状態である「中間体」こそが、新たな創薬研究の突破口になると考えたのです。そこで、計算構造生物学を専門とする先鋭領域融合研究群バイオメディカル研究所 梅澤公二助教と連携し、中間体の揺らぎを可視化する分子構造のシミュレーションモデルを作り09UndruggableDruggable細胞内でのタンパク質の状態を試験管の中で再現するタンパク質はアミノ酸が多数つながったポリペプチド鎖がらせん状やシート状に連なった複雑な構造をしています。生きた細胞内では、ポリペプチド鎖がさらに複雑に折りたたまれて、立体的な構造をとっています。これまでの創薬研究では、この立体構造が完成したタンパク質を標的とするケースがほとんどでした。創薬の課題を解決する革新的な技術喜井 勲 教授創薬不可能な疾患標的タンパク質を創薬可能にする技術!新しい創薬の概念を提案「温度ジャンプ」

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