理学部研究紹介2022
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系統進化学研究室分子光遺伝学研究室研究から広がる未来卒業後の未来像研究から広がる未来卒業後の未来像竹中 將起 特任助教信州大学大学院総合工学系研究科博士課程修了。基礎生物学研究所、筑波大学を経て、 2022年より現職。専門は、生物系統地理、系統進化、および発生遺伝学。小笠原 慎治 助教信州大学理学部物理科学科、同大工学系修士修了。理化学研究所、北海道大学勤務を経て2019年信大に帰ってきました。現在は生命現象を光操作する研究をしています。昆虫類は、種多様性の観点から最も繁栄に成功した分類群であり、その大繁栄の鍵の一つに、「昆虫の翅」の獲得が挙げられます。昆虫の翅は、鳥や恐竜と違い、手足とは独立した器官であり、4億年前に獲得したその起源は未だ謎に包まれています。また、昆虫類は、様々な環境に適応(適応放散)するためにあらゆる形態的、生態的な進化を遂げてきました。このような生物進化に関して、現存する生物のDNA情報を読み解き、その遺伝子の機能を調べることで、過去に生じた生物の進化における遺伝子基盤の獲得機構を紐解く研究を行っています。特に、モデル生物では解き明かせない、非モデル生物だからこそ紐解くことのできる課題に取り組んでいます。東城研究室での種レベルの系統進化と合わせて、生物のマクロな進化を、ミクロな視点から紐解くロマン溢れる研究をしています。光遺伝学は神経活動や遺伝子発現、タンパク質の働きを光で操作し、従来の手法では調べることができない生命現象を解き明かしたり、生命科学へ応用したりする新しい研究分野です。小笠原研究室では、遺伝子組換え・ゲノム編集などの遺伝子工学(生物)、化合物を創出する有機合成(化学)、レーザーを用いた光学(物理)など様々な分野を融合し、新しい光遺伝学の手法、装置を開発しています。また、開発した手法で培養細胞やゼブラフィッシュの胚を使って、細胞分化や発生における遺伝子発現プログラムや神経細胞の可塑性(記憶)に関与するタンパク質の機能解明に取り組んでいます。私たちの専門分野は、過去に生じた生物の進化について現存の生物に刻み込まれたゲノム情報から解き明かす、いわゆる基礎科学であり、直近で世の中に役に立つものではありません。しかし、現代の豊かな生活の基盤を築いたのは、その基礎科学です。また、普段の生活で幸せや豊かさを感じるのは、意外とこのような無駄に思えることです。野球やサッカーなどのエンターテイメントも生きていく上では無駄なものですが、ワクワクできて欠かせないものです。さらに、同じ景色を見ていても、その背景知識の有無によって楽しみ方は無限に広がります。そのように、教養や知見を広げ、自身で研究に取り組むことで、より人生が深く、楽しく、充実したものなると考えています。各自の研究テーマに取り組む中で磨かれる、論理的思考や、あらゆる課題を突破する力は、どのような業種にも欠かせないスキルです。また、生物多様性が失われつつある時代において、卒業後に研究職や、教員、公務員、一般企業に就職する卒業生も含めて、生物多様性の関心を波及していく中心的な人材を期待しています。光遺伝学は農学から医療まであらゆる生命科学分野に応用できるバイオテクノロジーです。開発した手法や研究過程で得られた知見を有用生物創生に応用したり、立体臓器の人工作製へ応用したりするなどの未来を描いています。培養槽に浮かぶ多能性幹細胞の塊に四方八方からレーザーが照射され、徐々に臓器ができあがっていく、そんなシーンを想像してみてください。生物学だけでなく化学、物理学など様々な知識・スキルを身につけられます。分野や業種の垣根を取り払い、クリエイティブな発想で世間を驚かせるユニークなものを創出し、社会で活躍しているでしょう。27水生昆虫の調査風景フィールドワークからラボワークまでを研究の一環として取り組みます(左)ゼブラフィッシュの胚にマイクロインジェクションしている様子。(右)ゼブラフィッシュの胚に紫色のレーザーを当てている様子。光操作により誕生した双頭ゼブラフィッシュの稚魚。受精卵から体ができる仕組みを解明する過程で生まれました。世界で初めて、非モデル生物であるカゲロウ目昆虫の実験室内における交配手法を確立し、その報告をした際の国際誌の表紙。非モデル生物は、魅力あふれる進化の鍵を握っているが、その研究基盤が整っておらず、発展していない。当研究室は、このような非モデル生物を研究の土台にあげるための研究も実施しています。理学科生物学コース理学科生物学コース非モデル昆虫から紐解く昆虫翅の分子基盤の獲得起源に迫る発生遺伝学研究光で生命を自在に操る

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