理学部研究紹介2022
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磁場の方向 ←(先鋭材料研究所)飯山 研究室浜崎 研究室研究から広がる未来卒業後の未来像研究から広がる未来卒業後の未来像飯山 拓 教授千葉大学自然科学研究科博士課程修了後、日本学術振興会特別研究員(東京工業大学)、信州大学理学部助手、助教、准教授を経て、2017年から現職。専門分野はコロイド・表面化学。浜崎 亜富 准教授埼玉大学大学院博士後期課程修了 博士(理学)2008年より信州大学。助教を経て現職。専門分野は光化学、コロイド界面化学、炭素材料など。磁場と絡めた研究を展開している。『磁石』を知らない人はいないでしょう。鉄にひっつくとか、グルグル巻きにした導線に電気を流すと電磁石になるとか…。モーターやハードディスクなど、産業製品には重要なものですし、最近ではリニアモーターカーなど、磁石が注目される機会も少し出てきたかもしれません。それでも『電気』に比べたら『磁気』はマイナーだと思います。磁石について『エネルギー』という観点で考えましょう。磁石が発生するエネルギーは電気エネルギーに比べて相当小さいです。電気は『感電』しますが、『感磁』という概念はないですよね。 分子数個分の小さな容器に物質を閉じ込めることが出来たら、それはいったいどのような挙動を示すでしょうか? 身の回りのすべての物質は原子・分子からできていますが、物質系を構成する分子の数が極端に少なくなると固体・液体・気体といった「相」の区別があいまいになったり、通常とは異なる分子混合状態や反応などが生じます。物質の精製や除湿などに利用されているゼオライトや活性炭には、直径1nm という分子数個分の小さな孔(細孔)が大量に存在しています。私たちはこの細孔を「分子を閉じ込める小さな容器」として利用し、その内部に捉えられた分子集団に対してX線や中性子線による構造解析法を初めて適用し、水分子のクラスター(分子集合体)形成や、広い温度範囲で連続的に構造が変化する特異な相転移挙動などを明らかにしてきました。細孔が持つ「エネルギーを消費することなく分子を捉える」機能は、排気ガスや水道水からの有害物質除去、水素やメタンなどのエネルギー分子の安全な貯蔵、バイオマス由来ガスからの有用な成分の分離などですでに利用が開始されています。分子を「見る」ように現象を理解し、これらの高機能化、新規機能開発に寄与したいと考えています。物質が「混ざる」「凍る」といった身近な現象はアボガドロ数レベル(1023)の非常に大量の分子が存在していることを前提としており、微小空間ではその常識が通用しないような現象が起こりえます。エネルギーや環境の問題解決に資するプロセス開発を目指しています。でもこれ、本当ですか? 知らないだけではないですか?そうです。皆さんだけでなく、われわれ科学者にとっても磁石、特に強磁場は未知の世界で、知らないことがまだまだあります。水を強い磁場の中に入れると、磁場の強い場所では水が凹み、磁場の弱いほうに押し出されるような現象が強い磁場(数テスラ程度:強い永久磁石の10倍くらい)では観測されます(Figure1)。水が磁場を感じるのに、人間(たくさんの水分でできている)は何も感じない・・・怪しいですよね? 強い磁場の中で、物質はどんな現象を起こすかを明らかにしていきます。磁場が物質に与える影響、特に生物などの比較的巨大な物体に対する強磁場の作用は謎が多く残されています。電子スピンレベルでの現象、一般的に磁性体と呼ばれる物質の研究は進んでいますが、非磁性体と呼ばれる物質と磁場がどのように相互作用するかは明らかになっていません。そもそも相互作用しないと思われていますが、実際には非磁性体(専門的には反磁性体という)も分子が大きくなるにつれて磁場を感じる能力が高くなることがあります。このような分子に強磁場を印加した場合や、強磁場中で物質を作ったときに、どのような現象が起こるのかを研究しています。現在、炭素や脂質分子に対する磁場の効果をメインに研究を行っていますので、その分野への就職が挙げられますが、全く関係ない分野で活躍している卒業生も大勢います。研究を通して科学に魅せられ、学者になる卒業生もいます。未知のことを探求する姿勢が身につけば、どのような研究開発にも対応できます。卒業生の可能性は無限大です。装置開発(試料合成)、実験、解析、発表が全てできる人材の育成が研究室の教育目標です。多くの卒業生が化学系企業、装置メーカー等の研究者として活躍しています。博士課程を修了し、大学教員となった卒業生もいます。新しい測定原理による吸着量・吸着速度測定装置Figure3. 多層カーボンナノチューブを磁場の中で作ると、磁場の向きに成長する。これも磁気配向と呼ばれる現象で、高温(700℃)でも充分に効果が出る。0T6T18ゼロ磁場パルス磁場静磁場ゼロ磁場10 umFigure1. 強磁場中に水を静置すると、磁場の強い部分の水位が下がる(矢印の部分)。水が磁場から逃げようとする力が働くためで、モーセ効果と呼ばれている。(旧約聖書の『モーセの十戒』にちなんでいる)なお、水面がわかりやすくなるように、中には1円玉を入れている。強磁場下10 umX線回折による実測とコンピュータ・シミュレーションの組み合わせにより決定したスリット型微小空間中のエタノール分子集団構造Figure2. 球状脂質二分子膜(細胞膜モデル)に瞬間的にパルス強磁場(3ミリ秒,20テスラ)を印加すると、球の直径が小さくなる。これは10テスラの静磁場と同様であった。磁気配向を経て分裂したと考えられる。本物の細胞はどうだろうか…。理学科化学コース理学科化学コースナノ空間中の分子を見る磁力の謎を解き明かす!

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