2022信大環境報告書
8/38

 93.2% これは2018年1月に信州大学人文学部社会学研究室が上田市で行った市民意識調査で、気候変動や温暖化の影響を「もう既に実感している」「10年先には実感することになると思う」と回答した方の割合です。翌2019年の台風19号豪雨災害、近年は出現頻度が極端に減った諏訪湖の「御神渡り」、信州の気候風土を活かした寒天製造業の苦境など、ここ信州でも気候危機を実感する出来事が増えています。 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が2018年に発表した特別報告書“Global Warming of 1.5℃”を受けて、2050年までに世界の温室効果ガス正味排出量をゼロとする脱炭素社会の実現が世界共通の目標となっています。日本政府も2020年10月に「2050年カーボンニュートラル宣言」を行い、取り組みを加速させています。 信州の地に根ざした教育研究を柱とする信州大学は、脱炭素社会の実現に向けて、ローカルとグローバルの両面から課題解決型の研究と社会連携を進めています。を審査するにあたり、大塚勉特任教授(地域防災減災センター)ほか4人の研究者に開発審査アドバイザーを委嘱し、専門的見地からの助言を求めました。こうした総合的な問題解決に貢献できることも信州大学の強みです。 2021年8月には、内閣府の再生可能エネルギー等に関する規制等の総点検タスクフォース準備会合において、茅野准教授が地域と共生した再生可能エネルギーの導入拡大に向けた制度のあり方について政策提言を行いました。 学内の人材育成では、全学横断特別教育プログラム:環境マインド実践人材養成コースにおいて、松岡浩仁准教授(工学部)担当の「再生可能エネルギー概論」や茅野准教授担当の「環境エネルギー政策論」、Mark Alan Brierley准教授(全学教育機構)の「省エネルギー住宅ゼミ」など、脱炭素社会実現のためのリテラシーを身につける授業が多数展開されています。 こうした教育研究と社会連携の成果は、カーボンニュートラル実現に貢献する大学等コアリション等を通じて、国内外に発信しています。今後のさらなる展開にご期待ください。(地域再エネ中核人材育成事業のワークショップ)TOPICS037■自治体や政府の政策形成支援 2021年6月、長野県は「長野県ゼロカーボン戦略」を策定しました。2019年夏から2年弱にわたって、茅野恒秀准教授(人文学部)が専門委員として、梅崎健夫教授(工学部)が県環境審議会会長として検討に関与しました。2030年に2010年比で温室効果ガスを60%削減するという意欲的な計画です。 市町村でも2050年カーボンニュートラルに向けた動きが本格化しています。2021年度には松本市、諏訪市、箕輪町、高森町などで地球温暖化対策の推進に関する法律に基づく地方公共団体実行計画の策定が行われ、いずれも信州大学の研究者が検討に関わっています。 松本市では、乗鞍高原が2021年3月に日本初のゼロカーボンパーク(国立公園において先行して脱炭素化に取り組むエリア)に指定されました。6月に開催されたのりくら高原ゼロカーボンフォーラムでは、茅野恒秀准教授(人文学部)が基調講演とワークショップの進行を担当し、日本初の挑戦に向けた乗鞍の第一歩をナビゲートしました。乗鞍高原は2022年4月に環境省によって「脱炭素先行地域」に選定されました。これは信州大学が松本市、地元の大野川区とともに共同申請したものです。 一方、脱炭素社会をめざす上で欠かせない再生可能エネルギーの推進が地域社会で問題を引き起こしている事例も県内には生じています。富士見町は町内の旧小川別荘の敷地で太陽光発電所を建設する民間事業者の計画■脱炭素社会の中核人材育成 高木直樹特任教授(SUIRLO)が会長を務める自然エネルギー信州ネットと信州大学が協働して、環境省の「地域再エネ事業の持続性向上のための地域中核人材育成事業」に取り組んでいます。2021年度は伊那谷において、民間企業7社、行政機関2者を対象にワークショップと個別の実践トレーニングの機会を組み合わせた人材育成プログラムを進めました。地域に根ざす異業種の事業者が相互理解と連携を推し進めることによって、事業活動と地域社会の双方に利益をもたらすネットワークづくりは、全国の同事業のモデル的存在と評価されています。脱炭素社会の実現に向けた研究・教育と社会連携人文学部 准教授 茅野 恒秀

元のページ  ../index.html#8

このブックを見る