2022信大環境報告書
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「MtInsects-16S」、「MtInsects-12S」PCRプライマーを設計することに成功しました。実際に全ての昆虫種で確かめるのは不可能ですが、昆虫類の全ての系統群(無翅昆虫類、旧翅類、新翅類、完全変態類)を含めた13目42科66種を用いてPCRが可能であることを確認しました。■ DNA バーコーディング 昆虫類は、種多様性の観点から最も多様な分類群です。しかし、未記載種も多く、地球上に何種類の昆虫が生息しているのか、把握できていません。そんな中、昆虫を含めて多くの生物種が絶滅に瀕しているため、環境保全や希少種の保全は急務の課題です。効果的な保全対策には、対象種や生息地の生物群集を把握する必要がありますが、多大な労力と費用がかかりますし、採集したサンプルの種同定には高い専門知識が必要です。 そんな中で注目されているのがDNAバーコーディング法で(図1)、高い専門知識がなくても種同定が可能なだけでなく、応用することで葉の食痕に残されたDNAから、葉を摂食した動物種を特定したり、希少種の非侵襲的な生物多様性評価も可能です。さらに、種同定だけでなく、未記載種や隠蔽種の発見にも繋がり、分類学的にも強力な補助ツールとなり得ます。環境への取り組み■環境DNA DNAバーコーディングを用いた発展的な「環境DNA」解析は、河川からコップ一杯の水を汲むだけで、その水中に含まれている生物の排出物や垢などの細胞に含まれている微量のDNAを解読することで、川に生息している生物種を調べることができます。例えば、魚類の環境DNA研究では、沖縄美ら海水族館の「黒潮の海」大水槽の水(数リットル)から、水槽内に生息している90%以上の魚を検出しました(Miya et al., 2015)。■全昆虫類汎用PCRプライマーの設計 DNAバーコーディング法や環境DNAは、PCRを用いて特定の遺伝子領域を増幅するため、PCR用のプライマーの設計が最も大事になりますが、地球上で最も種多様性・遺伝的多様性の高い昆虫類では、汎用プライマーが存在しません。そんな中で、私たちの研究で全昆虫種に汎用でき、かつその遺伝子領域で全ての種を区別・識別できる図1 DNA バーコーディングとは、スーパーマーケットの製品コードである黒い縞模様(バーコード)をスキャナーで読み取るイメージで、特定の短い遺伝子領域を読むだけで、迅速、正確、そして自動的に種を同定できる手法。■今後の計画 現在、設計したプライマーを用いた環境DNA研究を実施しており、世界中のどの先行研究よりも良好な結果が得られています。画期的な点としてはその簡易性と検出力の高さです。例えば、日本一の規模である信濃川において、網羅的に生物群集を評価するには、多大な労力がかかるだけでなく、定期的な調査も必要となります。今回開発したプライマーや環境DNAはより広範囲に長期的なモニタリングが可能となるでしょう。また、保全対策だけでなく、一般市民が地元河川の生物相を知るためであったり、環境教育の際に調査河川の生物相を事前に把握したり、環境DNAから得た生物相のデータを用いて河川の特徴を考えたりなど、多岐にわたる発展的用途が考えられる、将来性の高い生物多様性評価手法の第一歩を踏み出したと考えています。研究成果論文理学部 特任助教 竹中 將起 DNAバーコーディングに基づく 種の同定・識別 〜近い将来の生物多様性評価法〜2-1 環境教育博士・卒業論文・研究成果論文2102

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