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36 大きくは三つの専門を研究しています。一つ目は、中世英語(文献) 学です。これはそのまんま。二つ目は、中世北欧の文献学です。そして、ラーなどの著作も使いながら、言語的なものと神話世界とのつながりを考えました。 いやいや、「中世英文学史」という授業があったのですが、その評価がBで……。それがすごく悔しかったものだから、単位は取れたけれども、4年生のときにもう一度受講しました。その授業では、後に僕の研究につながる最古の英文叙事詩『ベーオウルフ』やチョーサーの『カンタベリ物語』などが取り上げられていたんです。僕は自分でテキストの用語集(Glossary)をつくって勉強しました。そのあたりからですね、文献学の面白さを強く認識するようになったのは。 つまり文献学とは、言ってしまえば文学と言語の境界にあるものです。特に『ベーオウルフ』などの中世英語文献を味わうためには、言語学的な知識が欠かせません。言語を深く知ることで、初めてその文学の価値がわかるんです。三つ目がトールキン研究。 オクスフォード大学の教授でもあった文献学者トールキンの研究です。先ほども紹介した最古の叙事詩『ベーオウルフ』についても、トールキンはほかを凌駕する成果を残しています。北欧の英雄ベーオウルフが、怪物グレンデルとその母親を退治し、デンマークに平和を取り戻す。ベーオウルフはスウェーデン南部の王になるが、火を吹く龍を倒して自分も死にいたる、といった内容です。以前には、デンマーク王家の歴史を伝える文献として理解され、そのファンタジーの要素は徹底的に無視されました。トールキンはそんな解釈をひっくり返し、この作品は怪物退治の物語だからこそ価値があるのだ、と論じて人びとの『ベーオウルフ』を見る目を変えました。ITŌ, Tsukusu──優秀ですね。──どういうことですか?──現在へのつながりが確認できますね。ご専門のことをお聞きしたいのですが?──中世北欧の文献学というのは、ちょっと聞きなれないですね。 21世紀の今はまさにホットな分野です。アイスランドなどの北欧に伝わる写本資料、ルーン文字で書かれた碑文から北欧神話や中世の英国や北欧の文化や言語、歴史を探ることになります。18世紀にようやく知られることになったこれらの資料には、研究する素材がまだまだ山ほどあります。──トールキン研究についてはどうでしょう。

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