guidance_shinshu2023_arts
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30 踊る授業もありますよ。といってもダンス経験のない人がほとんどなので、それをどう踊ってもらうか、というのが毎年の私の課題であり楽しみなんです。ジャンプをしたり、音楽のリズムにのっていないと、ダンスじゃないと思う人もいれば、街中で人が歩くだけの姿にダンスを見出す人もいる。つまり、ダンスってなんだろう?という疑問を持って、それぞれのアプローチで作品をつくろう、という授業をするの。 実際の舞台作品って、ダンサーが踊れば済むかというと、そうではないんだよね。劇場、舞台美術、音楽、照明、衣装、振り付けとそれぞれのセクションで共同作業をしていくんだけど、そこでかかわる人すべてに、いかに自分の考えを的確に伝えるかが作品を左右する。最初は文章をつくって、それに基づいて話し合いをするんだけれど、時には絵や写真、音楽を使ったり、読んだ本から引用したり、身ぶり手ぶりで踊ってみせたりすることだってある。頭の中にある「自分マップ」から生まれる「伝えたいこと」を、人がわかるようにアピールしなくちゃならない。何かを創作するって、あらゆる伝達ツールを使ったコミュニケーションの集積なの。大学では机上での勉強が多いけど、この授業では、自分の考えを伝えるために、実際に身体を動かして表現しながら、他者と苦しいまでのコミュニケーションをとってもらいます。「思っていることを伝達するのは意外とむずかしい」と感じながら、独自の表現方法を見出して、最後の「ダンスづくり」という地点にたどりつくわけ。コミュニケーションの技術を実践的に身につけていく授業とも言えると思うよ。 そう、そして、生身の身体が生きてきた地域性や個性、外部とのつながり、つまり、人間を取り巻く過去と現在進行形をつなぐあらゆる事象について考えていくこと。ダンスを知ること、経験すること、考えること、これは人間の身体の魅力、未来に向けて現在の私たちのあり方を、実践的な表現行為とともに考えることでもあるんです。KITAMURA, Akiko──それじゃあ学生は踊るわけではないんですね?──なるほど。でも先生は実際に舞台作品をつくっているんですよね。それと授業とどんな接点をもっているんですか?──ダンスをつくる、といっても、身体をリズムに合わせて動かすという運動系の要素ばかりじゃなくて、もっと個人の意識や表現力を試される深いものなんですね。──壮大で大変そうだけど達成感がある学びですね。今日はどうもありがとうございました。

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