農学部研究紹介(2022-2023)
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8ACABDBC上の写真は,抗生物質リンコマイシン(LIN)の非存在下・存在下で放線菌ストレプトマイセスセリカラー株を培養した時の様子を示しています。この放線菌は,高濃度のLIN存在下では生育できませんが,低濃度のLIN存在下では良好に生育し,LIN非存在下では認められない青色色素抗生物質(二次代謝産物)を高生産します。この現象から,LINは,単なる抗菌物質としてだけでなく,二次代謝活性化物質としても働くことが明らかになりました。放線菌小胞体の染色放線菌は,抗生物質をはじめとする様々な二次代謝産物を生産することで知られており,産業的に極めて有用な微生物群です。現在までに発見された微生物由来の低分子生理活性物質(広義の抗生物質)の7割近くが放線菌の二次代謝産物からであり,それらの中には,医薬,農薬,動物薬として実用化されたものが数多くあります。過去十数年のゲノムプロジェクトの成果からは,放線菌の二次代謝に関与する遺伝子の多くが潜在的に存在していることも判ってきました。放線菌の二次代謝の仕組みを深く理解し,その潜在的な二次代謝能を引き出し活用することは,微生物創薬の研究を発展させる上で重要課題の一つと位置付けられています。核の染色二重染色独立行政法人食品総合研究所特別研究員を経て2007年11月より信州大学農学部。研究分野は応用微生物学。「抗生物質は自然界においてどのような存在なのか」、「微生物はなぜ抗生物質をつくるのか」、これらの謎を紐解きたい。寒天培地上での酵母の生育写真。遺伝子の違いによって生育度合いが異なる。酵母の蛍光顕微鏡写真応用分子微生物学研究室分子細胞微生物学研究室細見昭助教研究から広がる未来分子生物学という概念が提唱されて半世紀以上経ち、様々な研究手法が開発され、生命の理解が飛躍的に進んできました。その中で、酵母は真核生物のモデルとして大いに利用されています。酵母は古来から発酵に利用する生物として役に立ってきましたが、今は最先端の研究材料でもあります。この酵母を用いて、未だ明らかになっていない生命現象を明らかにすること、さらに、それを利用して、酵母でのタンパク質生産に利用したり、創薬のターゲットを見つけるのが研究の目的です。卒業後の未来像生化学的、分子生物学的な手技が身に付きます。研究を通して、物事を客観的に捉え論理的に解決するトレーニングを行います。また、就職活動のサポートも行います。研究から広がる未来多剤耐性菌が次々と発生する中で、新しい抗生物質の発見が求められています。しかし、放線菌をはじめ、微生物の二次代謝産物から得られることの多い抗生物質の発見数は減少の一途を辿っています。この窮地を乗り切るには、新しい抗生物質の開発に尽力することに加え、抗生物質の本質を理解することが極めて重要です。応用分子微生物学研究室では、抗生物質を取り巻く様々な課題や疑問の解明を目指して、代表的な抗生物質生産菌である放線菌の分子生理学的研究を展開しています。卒業後の未来像微生物実験や分子生物学実験、さらには生化学実験を通して、微生物の機能を細胞および分子レベルで理解できるようになり、食品・医薬品分野における微生物資源の利用高度化に向けた最新の知見や技術が身につきます。卒業後に食品・製薬関連分野の企業等で活躍できる人材の育成を目指しています。20世紀初頭のペニシリンの発見を契機に、抗菌性を有する物質が微生物の二次代謝産物から探索されるようになりました。1940年代には、土中に棲む放線菌の二次代謝産物から結核菌に効くストレプトマイシンが発見され、抗生物質という言葉が誕生しました。それから現在に至るまで、様々な微生物から多くの抗生物質が開発され、人類はそれらから多大な恩恵を受けてきました。抗生物質の元来の定義は、微生物が生産し、他の微生物の生育を抑制する効果があり、動物に対して毒性の低い化学物質とされています。抗生物質と聞けばこのイメージが浮かびますが、自然界ではどのような存在か?といった抗生物質の根本的な性質が十分に理解されているわけではありません。私達の研究室では、微生物や抗生物質に関する素朴な疑問に触れながら、その解明と応用研究への展開を目指しています。保坂毅准教授2008年3月愛媛大学連合農学研究科修了。理化学研究所の研究員を経て、2016年4月より現職。細胞内のタンパク質の挙動に興味がある。真核生物のモデルである酵母を使い、生化学及び分子生物学的手法を用いて、細胞内のタンパク質輸送やタンパク質分解の研究を行っています。真核生物は原核生物に比べて複雑な細胞内構造を有しています。タンパク質がその複雑な内部を通り目的地に正しく輸送される事は真核細胞の正常な機能に重要です。また、タンパク質は正しく作られなければ機能を発揮しません。しかしながら、全てのタンパク質が正しく作られるわけではありません。このような“異常”タンパク質を分解する機構もまた真核細胞の正常な機能に重要です。本研究室では、タンパク質がどのように輸送及び分解されるのかを調べています。生命機能科学コース生命機能科学コース酵母を用いて基本的な生命現象を明らかにして利用する抗生物質の本質的理解に向けた放線菌の分子生理学的研究

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