繊維学部研究紹介
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教員紹介大川研究室では、水中に生活する生物がつくる繊維の生物科学・生化学研究を進めています。研究対象は主に軟体動物門と節足動物門の生物です。海に棲む二枚貝は、「足糸」と呼ばれる繊維をつくります。足糸繊維は、ジュール・ベルヌ作の冒険小説「海底2万里」にも登場し、カイコも羊も綿花もない海中で手に入る足糸繊維をつかい、潜水艦ノーチラス号の乗組員は衣類をつくったと描かれています。18-19世紀南欧州の貴族達は、足糸繊維の希少な衣類や工芸品を所有し、互いの品を自慢しあったそうです。足糸繊維はタンパク質でできています。タンパク質はアミノ酸が連結した鎖のような分子です。水中で足糸繊維をつくるために最適なアミノ酸の並び順があるはずで、生物進化の途中では、より強い繊維をつくるために、とてつもなく永い時間を経て、アミノ酸配列が次第に改良されながら、今に至っていると考えられます。水中で優れた繊維をつくるために生物が獲得してきた「知恵」は、最新の分析化学を駆使して明らかにされようとしています。「生物がつくった繊維材料」から、研究者が学べることは大変に多いのです。そして、未来の繊維材料工学につながります。研究室の卒業生たちは、現在、紡績、繊維製造、不織布製造、食品原料製造、スポーツ用品、プラスチック加工、天然多糖の加工製造販売、化成品製造などのメーカーの開発・研究部門の技術者として活躍しています。大川浩作教授信州大学繊維学部機能高分子学科卒業後、同大学大学院工学系研究科博士前期課程入学、修了後、東京大学大学院理学系研究科博士課程に進学、1998年博士(理学)取得.1996年信州大学繊維学部助手に着任、2014年より現職。1969年生。ミドリイガイ(Pernaviridis)が水中でつくる不思議な足糸繊維足糸繊維は、先端の接着円盤(左、くっつく部分)、遠位糸状部(中央、硬く強い繊維)、近位糸状部(右、コシの強い繊維)からできています研究から広がる未来卒業後の未来像化学・材料学科生物化学研究のフロンティアが拓く未来とは?教員紹介生物は進化過程で優れた性能を持つ構造体を獲得しています。様々な反応を触媒する酵素や二酸化炭素を使った光合成などです。様々な機器の発達により、これらの生物構造体の詳細な構造が解明され、ナノメートルスケールで複雑な構造を持つことがわかっています。そこで、人工的にこれらの構造を模倣し、生体内での高効率なエネルギー変換および物質変換機能の構築について研究を行っています。具体的には、環境中で有害な物質の分解、微量な物質を検出できる化学センサ、シリコンを使わない太陽電池などの研究を行っています。化学を武器とし、電機や機械などの多分野との接点を持つ多面的な人材となることを期待しています。これまでに、化学・材料系メーカーを中心に、電機・機械メーカーにも卒業生を排出しています。木村睦教授平成2年筑波大学第二学群農林学類卒業、平成4年筑波大学大学院(環境科学専攻)修士課程卒業、平成7年信州大学大学院(工学系研究科)博士課程修了専門:機能材料化学ナノ構造材料を使うことにより、非常に低い濃度のガスを感知することができるようになります(人工嗅覚センサの開発)研究から広がる未来卒業後の未来像私たちの研究室では、生物構造を観察し、有機および無機化学的合成手法を使った新しい機能性材料の創成について挑戦しています。ナノスケールの大きさを持つ環境浄化触媒、微量な化学物質を感知することができる高感度センサ、カラフルな太陽電池を実現する機能性材料について研究を進めています。様々な元素を自由自在に操り、生物内に存在するナノ構造に近い構造を創り、さらに得られる材料の機能を詳細に解析しています。これらの材料は、これからの持続成長可能な社会構築のためのキー材料となります。化学・材料学科ナノテクで拓く機能性材料。生物構造の模倣による新しい機能発現30

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