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次号にて、「真綿・蚕糸館」の楽しみ方がわかるフロアガイドをご紹介する予定です。12スロープに沿って木目の模様がつけられており、無機質に見えるはずのコンクリートにどこか柔らかな印象を与えています。入口から建物内部に入ると、1階中央に木材をふんだんに使ったコミュニティスペースが。そこから2階に続く螺旋状のスロープを進むと、真綿を使ったビジュアルアートやクラフト作品など、日本真綿協会が長年行ってきた公募展の受賞作品を鑑賞することができます。スロープを進み建物の裏手側に着くと、正面とは異なるデザイン窓。皇室にもゆかりのある日本在来の蚕「小石丸」の繭の形を象っており、そこからキャンパス内の樹木や、レンガで作られた貯繭庫(国登録有形文化財)を眺めることができます。信州大学繊維学部と日本真綿協会が包括連携協定を結んだのは、2019年。「真綿・蚕糸館」は、真綿や蚕糸に関わる科学技術の発展、文化の維持・振興、人材育成を目的にした、協定に基づく活動の拠点であるとともに、繊維学部が受け継いできた真綿・蚕糸研究の精神を次世代へつなげる新たなシンボルでもあります。上から見ると四角形なのに…八角形の棟持柱をモチーフにした不思議椅子1988年東京大学大学院 工学系研究科修士課程 建築学専攻 修了、1992年東京工芸大学工学部 助手、1993年信州大学工学部 助手、1995年東京大学 博士(工学)取得、1996年信州大学工学部 助教授、2001年より現職信州大学学術研究院(工学系)教授工学部建築学科土本 俊和(つちもと としかず)が長年研究対象にしている、日本古来の建築物に用いられてきた棟木を支える柱のこと。古代建築の遺跡や伊勢神宮など歴史ある神社仏閣にも、その要素を見ることができます。土本教授が、自身の著書『棟持柱祖形論』でも論じているように、日本建築の原初的「祖形」となるものだと考えられています。「設計当初から、棟持柱の存在ありきで考えていました。棟持柱の原初的な歴史は、真綿の歴史にも重なりますし、その構造は、桑の木枝や角真綿をつくる際に用いられる木枠などのイメージとも重なります。この棟持柱から、繭をイメージする全体のコンセプトを形作っていきました」(土本教授)。棟持柱は本来、丸太で作られますが、今回使用したのは長野県産カラマツを使った集成材。実際の丸太を角材で表現するため、下部は四角形に近い形で成形し、上部に行けば行くほど細く、八角形が強調される特殊な形の柱となっています。皇室ゆかりの日本在来の蚕「小石丸」の繭をかたどった窓、いつまでも外を眺めていられる2001年東京藝術大学美術学部建築科 卒業、2004年京都大学大学院 人間・環境学研究科修士課程 修了、安藤忠雄建築研究所、東京藝術大学に勤務の後、2014年京都大学 博士(人間・環境学)取得、2015年信州大学工学部建築学科 助教、2017年より現職信州大学学術研究院(工学系)准教授工学部建築学科羽藤 広輔(はとう こうすけ)デザインを担当したのは、建築学科の学術研究院(工学系)羽藤広輔准教授です。「八角形の棟持柱は建物の核となる存在です。そこから、この空間に合う家具の造形を考えました」(羽藤准教授)。1階のコミュニティスペースの奥には、関連図書の閲覧やゼミなどでも利用できる真綿・蚕糸研究ラウンジがあり、2階には、角真綿づくり・繰糸体験ができる講習室を完備しています。今後、授業やゼミ活動、学内外を対象にした真綿や蚕糸に関わるさまざまなイベントなどにも利用されていく予定です。「1つの作品であると同時に、新しい教材でもあります」と土本教授。「真綿・蚕糸会館」は、ただ機能を満たすだけでない、コンセプトとなる言葉や考え方が、実際に形となることを実感できる建築物です。「そんな建物がキャンパス内にあることは、ものづくりに関わる多くの学生のモチベーションにもつながるのではないでしょうか」と、羽藤准教授も期待を寄せます。繊維学部の前身は、明治43年(1910年)に設立された官立上田蚕糸専門学校。蚕糸の関わる初の高等教育機関として始まりました。「真綿・蚕糸会館」は、そんな繊維学部の長い歴史と精神を次の世代に受け継ぐ場所として、長きにわたり、親しまれていくことでしょう。2階の真綿・蚕糸講習室。床と備え付けの建具は、蚕のさなぎをイメージしたベンガラ系で配色独特形状の「棟持柱」が連なる建築的特徴と意味建物全体の設計を手掛けたのは、信州大学工学部建築学科に所属する学術研究院(工学系)土本俊和教授。建物中央には、八角形に面取られた「棟持柱」が6本、配されています。棟持柱とは、土本教授真綿・蚕糸研究の精神をコンセプトにした空間に1階のコミュニティスペースに置かれた机と椅子は、この棟持柱をモチーフにした八角形を基本形にした特殊なデザイン。その

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