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09人の体内には、細菌やウイルスなどの異物を排除し、炎症を抑制するための免疫機能が備わっています。しかし、食生活の乱れやストレス、加齢など、さまざまな要因によって免疫機能は低下してしまうことが分かっており、それがアレルギーやがんなどの疾患の原因になることも少なくありません。とくに、食生活は免疫機能に大きな影響を及ぼします。田中沙智准教授は、食と免疫機能の関係性について、免疫学、栄養学、予防医学の面からアプローチを続けています。注目するのは、長野県独特の食文化です。「食と免疫機能の関係については、明らかになっていないメカニズムがまだまだたくさんあります。長野県で古くから食べられている野沢菜漬けの機能性も、そのひとつでした」と田中准教授。田中准教授が野沢菜の研究を始めたのは、2015年頃。野沢菜は、長野県が認定する「信州の伝統野菜」のひとつで、県内各地で広く栽培され親しまれている漬菜です。しかし、その機能性を科学的に調べた研究は多くありません。田中准教授は、まず、野沢菜とその他の野菜との違いを明らかにするため、野沢菜を含めた49種類の野菜を集めてスクリーニング調査を実施。免疫を司るマウスの脾臓細胞に野菜の抽出物を添加し、免疫細胞の活性度合いを調べました。指標としたのは、インターフェロン-γ。免疫細胞から分泌される、サイトカインと呼ばれるタンパクの一種です。生体内のさまざまな免疫細胞の増殖や活性に影響を与え、ウイルスなどの異物を排除するのにも重要な役割をもつ物質です。調査の結果、アブラナ科やユリ科の葉菜類が断トツ、中でも野沢菜はトップクラスでインターフェロン-γの産生を促す効果が高いことが分かってきました。インターフェロン-γの産生を促しているのは、野沢菜に含まれる多糖と呼ばれる糖類の一種であることも分かってきました。多糖は、単糖が多数結合した物質で、生体内の免疫細胞のひとつである樹状細胞を刺激します。そこから免疫細胞刺激物質が産生し、免疫細胞の一種ナチュラルキラー細胞に作用し、インターフェロン-γの産生が促され、さまざまな免疫細胞をさらに活性化させます。それが、野沢菜が免疫機能を高めるメカニズムです。野沢菜の抽出物を食べさせたマウスと食べさせないマウ2009年東北大学大学院農学研究科修了。北海道大学、帯広畜産大学を経て、2013年10月より信州大学農学部に赴任。2018年より現職全国でも知られる、信州を代表する野沢菜に見る食習慣と免疫機能の深くて長い関係野沢菜漬けがもつ免疫アップ効果のメカニズムとは田中 沙智 (たなかさち)野沢菜で信州の食長野県の漬物の代名詞として知られている「野沢ていません。信州大学農学部の田中沙智准教授(学一種が生体内の免疫細胞に作用し、免疫機能を高め田中准教授が免疫学や予防医学の視点から探求を食習慣と免疫の関係性について、ご紹介します。(文・柳澤 愛由)信州大学学術研究院(農学系)准教授PROFILE今年4月には、凍り豆腐の免疫効果も報道発表!

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