08高齢化や紫外線量の増加により、皮膚がんは世界各国で増加の一途をたどっています。1980年と2015年の患者数を比較すると、その数は約8倍。なかでもメラノーマなど「希少がん」と呼ばれていたがんが近年増加傾向にあり、特に、白人の多いオーストラリアやアメリカなどで顕著となっています。「がんは早期の発見と治療が原則です。しかし皮膚がんの診断は専門医でも容易ではありません。皮膚がんの患者数が顕著に増えている海外では特に喫緊の課題です。正確な診断を支援するようなシステムのニーズは、日本のみならず、世界各国で高まってきているのです」。そう話すのは、信大病院皮膚科の医師で、学術研究院(医学系)奥山隆平教授。例えばメラノーマは、別名「ほくろのがん」とも呼ばれ、良性のほくろ(色素性母斑)との区別が非常に難しいことで知られています。早期発見には、視診のほか、拡大鏡(ダーモスコープ)を用いたダーモスコピー検査が有効です。信大病院では、国内でもいち早く1990年代からダーモスコピー検査を取り入れ、数々の症例経験を蓄積してきました。その第一人者が、信大病院皮膚科の医師で、学術研究院(医学系)古賀弘志講師と皆川茜助教です。数年前から、カシオ計算機とともに、皮膚科医専用の画像管理ソフトウェアと、AIによる皮膚がんの診断支援システムを共同開発しています。「以前からダーモスコピー検査に関わる機器は使い勝手の面で課題も多く、必ずしも臨床現場のニーズを満たしてはいませんでした。特に、病変部位の鮮明な写真を得るには、医師が市販のカメラに専用のレンズを取り付け、カスタマイズし撮影するしか方法がなく、数年前までダーモスコープとカメラが一体になったような専用のデバイスは存在すらしていませんでした」(古賀講師)周知のとおり、カシオ計算機はデジタルカメラ分野で長年の実績があります。その技術力を用いた新たな展開として進出したのが、多くの課題を抱えていた医療機器分野でした。また、デジタルカメラだけでなく、カシオ計算機独自のコア技術が、デジタル画像変換技術。これまで数多くのサービスを市場に提供してきた経験を活かし、2015年頃からデバイスだけでなく、AIの活用も見据えたダーモスコピーの画像変換・類似画像検索システムなどの開発を始めていました。「その頃、ダーモスコピー専門家がいるレベルの高い病院として、信大病院のお名前をさまざまな所からお聞きしていました。そこで、開発の初期段階だったダーモスコピーに関わるシステムを評価してもらおうと、古賀先生と皆川先生のもとを訪ねたのです。かなり緊張しながら伺ったのですが、先生たちにはストレートにいい評価をいただき、AI開発に向けた足掛かりとなったことを覚えています」。カシオ計算機の開発責任者である北條芳治さん(開発本部メディカル企画開発部長)は、信州大学との共同研究に至ったきっかけを、そう振り返ります。その後、カシオ計算機は、「ダーモカメラDZ-D100」を開発します。2016年に試作機が完成、2019年5月には医療機器としての販売を果たします。続く2020年3月には、新たに「ダーモスコープDZ-S50」の販売も開始。開発にあたり、古賀講師や皆川助教は、ユーザーインターフェース増加の一途をたどる皮膚がん、しかしその判定は皮膚科の専門医でも難しいCASIO拡大鏡「ダーモスコープDZ-S50」。診察時に病変を拡大して観察するのに使用する。2020年3月発売。開発中の診断支援システムの画面。医療機器として認められるために、改良を進めている。信州大学医学部附属病院 臨床研究支援センター長 信州大学学術研究院(医学系)教授 医学部皮膚科学教室奥山 隆平 (おくやま りゅうへい)1989年東北大学医学部卒業、いわき市立総合磐城共立病院 、Harvard Medical Schoolを経て、2003年東北大学医学部附属病院講師、2005年東北大学(大学院医学系研究科)助教授、2010年信州大学医学部教授、2014年より現職信大病院皮膚科とカシオ計算機の課題ベクトルの一致PROFILE
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