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した状態だった「醪」が、少しずつ、酒粕と原酒の状態に分けられていきます。まだ、うっすらと白くにごった「おりがらみ」状態の原酒を、1時間ほど置き、細かな米や酵母などの「おり」を沈殿させると、普段目にしている透き通った清酒に。この工程を酵母が違うタンクごとに繰り返し、出来上がったのは3種のテイスト。酸味と甘い香りを持つもの、うま味と深みをもつもの、コクと後味のキレを持つものなど、それぞれ少しずつ方向性が異なる味わいが生まれました。関係者でテイスティングを行い、最終的には、深いコクと後味のキレを持つ酒が「信大仕込」として選ばれました。出来上がった酒を試飲したとき、関さんは水による変化もしっかりと感じたといいます。「酵母にストレスがかかると雑味や苦みにつながることもあるのですが、後味がスーッと消えていくキレの良さを、今回特に強く感じました。酵母がしっかりと反応し、ストレスなく発酵が促された証拠です。全体としてアルコール発酵が早く進んだことも特徴的でした。もともとの水のきれいさと、ミネラル分の多さによる相乗効果が確実に生まれています。水の特徴も出た、いい酒がつくれたと思います」。「信大クリスタル」は、先述した通り、手嶋勝弥教授が研究する高機能な単結晶材料の総称です。イオン、原子、分子などが規則正しく並ぶ単結晶は、物質の特有な性質を発現しやすく、電子デバイスや燃料電池など、さまざまな分野で高機能材料として利用されています。手嶋教授は、信州大学が世界を先導する、「フラックス法」と呼ばれる結晶化技術により、高機能な結晶材料=「信大クリスタル」の「レシピ」を数多く開発してきました。ただ、これまで応用されてきた先は、精密機械工業や医療などの分野がほとんど。今回初めて日本酒づくりという伝統産業に、「信大クリスタル」が展開されたことになります。丸世酒造店の新しい浄水器に搭載されているのは、水中の重金属などを吸着する「三チタン酸ナトリウム」という「信大クリスタル」。すでに市販されている携帯型浄水ボトル「NaTiO」(ナティオ)(※3)にも搭載されている結晶材料です。05最先端の材料科学から生まれ新時代の「水」が、日本酒の伝統「信大クリスタル」は信州大学の誇る材料科学を象徴する高機能結晶材料「革新的無機結晶材料技術の産業実装による信州型地域イノベーション・エコシステム」が展開する社会実装の 手嶋勝弥教授。「信大クリスタル」が搭載された浄水器の前で出来上がった3種類の酒を関係者でテイスティング「搾り」の様子。丸世酒造店がこの工程で使うのは、「佐瀬式」と呼ばれる方法。昭和初期の機械が現役で動く「おりがらみ」状態の原酒。ここからゆっくり「おり」を沈めて、透き通った上澄みだけが清酒となる「醪」が搾られ、原酒がゆっくりと流れ出ていく

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