(※1)「信大クリスタル」は、信州大学が誇る無機結晶育成技術「フラックス法」(物質の融点よりもはるかに低い温度で単結晶を育成する技術)を用いて生み出された高品質・高機能の結晶材料の総称(※2)複数の企業によって構築された製品やサービスを取り巻く共通の収益環境2021年7月8日、信州大学の名前を冠した初めての日本酒「勢正宗(いきおいまさむね) 信大仕込」の販売開始に伴う記者会見が行われました。この日は、信州大学関係者と製造場である(株)丸世酒造店、(公財)長野県テクノ財団も同席。これまでの経緯とその特徴が紹介されました。「勢正宗 信大仕込」には、「信大クリスタル(※1)」で浄化した仕込み水が使われています。プロジェクトがスタートしたのは、2020年12月。長野県の関連団体(公財)長野県テクノ財団のコーディネートにより、高機能結晶材料を研究する、信州大学先鋭領域融合研究群先鋭材料研究所/学術研究院(工学系)の手嶋勝弥教授と丸世酒造店とが出会い、「信大クリスタル」の思いを共有したことがきっかけでした。翌1月、丸世酒造店の仕込み蔵の一角に「信大クリスタル」を搭載した新しい浄水器が設置され、本格的な実証実験がスタート。2月に初めての仕込みが行われ、3月に搾り工程を経て同製品が誕生、販売、流通計画などが整いこの日を迎えました。信州大学と長野県は、「革新的無機結晶材料技術の産業実装による信州型地域イノベーション・エコシステム(以下本事業)」を展開しています。本事業は2017年に、文部科学省「地域イノベーション・エコシステム形成プログラム」の採択を受けて始まりました。信州大学と長野県が相互に連携し、信州大学が誇る研究シーズである「フラックス法」で育成した高機能結晶材料の事業展開に取り組んでいます。これまで、地域の強みを活かしたハイインパクトな産業を創出するエコシステム(※2)の確立を推進すべく、水・医療・エネルギー分野をフィールドに、さまざまなプロジェクトを実施してきました。そのひとつが、「信大クリスタル」の一種、「重金属吸着結晶」を用いた浄水器の開発です。今回の日本酒づくりは、その活動の一環で実現。最先端技術と伝統が融合した、これまでにない温故知新の取り組みの背景には、「伝統を超えよう」と日本酒づくりに情熱を傾ける、若き杜氏の思いがありました。酒づくりに必要なのは、良質な酒米とその土地で得られる清らかな水。明治の創業から約150年の歴史を持つ長野県中野市の丸世酒造店は、古来より引き継がれる「もち米熱掛四段仕込み」の酒をつくる老舗の酒蔵です。その若き杜氏で五代目を継ぐ関晋司さんにとって、「水を変える」ことは、「この土地で、伝統を超える」ことへの思いにあふれた新たな挑戦でした。「この水ならできる―」。関さんは、「信大クリスタル」で浄化した水を口にしたとき、そう感じたそうです。「正直、信大クリスタルのお話を聞いたときは半信半疑でした。でも、実際に水を飲んだときに、『ここまで違うのか』と肌感覚で感じることができた。この水であれば、新しいものができると直感しました」。酒づくりに使われる水は、井戸水や河川を水源とする、中野市の上水道。清らかな水源から引かれた水ではあるものの、上水道には、酒の味や見た目に影響を及ぼす鉄やマンガンなど、金属イオンが微量ながら含まれることがあります。この金属イオ03信州中野の老舗酒蔵と「信大クリスタル」の運命的な産学官連携で始まった老舗酒蔵と先鋭研究のコラボレーション若き杜氏が新たな酒づくりに挑戦するきっかけは「水を変える」という新発想明治から続く信州中野丸世酒造店と信州大学先鋭材料研究所の夢のコラボレーション (文・柳澤 愛由)(文・柳澤 愛由)樽に酒米を入れ、蒸し上げる様子。蒸気が辺りに立ち込め、仕込み部屋は湯けむりに包まれる創業150年の伝統が詰まった仕込み部屋。歴史を感じる道具が並ぶ
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