2021理学部研究紹介
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11研究から広がる未来卒業後の未来像理学科物理学コースとりまく環境(温度、電場、磁場、圧力)によってモノの性質は大きく変化する。上図は、磁場によってシリコンが半導体から金属に変化することを示している。極低温にすると、多くのモノが超伝導現象を示す。超伝導状態では、電気抵抗ゼロ、および磁場を完全に排除する(完全反磁性)という普遍的な性質を示す。物性理論研究室1987年 早稲田大学卒業、 1995年 新潟大学大学院博士課程修了 博士(理学)、 1995-1997年 日本原子力研究所、 1997-2002年 東北大学大学院理学研究科、 2002年-現在 信州大学理学部樋口 雅彦 教授卒業生は、物理学の知識を生かして様々な分野で活躍しています。例を挙げますと、企業(電気、機械、ソフトウエア関連など)への就職、公務員、公的研究所の研究員、高専の教員、小学校・中学校・高校の教員。研究対象のモノとして、アミノ酸、たんぱく質、DNAなどの生体物質も扱われ始めました。これら生体物質の性質を解き明かすことで、生命現象の不思議に迫れるかもしれません。また、モノをとりまく環境(温度、電場、磁場、圧力)を制御することにより、モノの性質を積極的にデザインすることも可能です。さらには自然界にない新奇な機能をもった人工物質の創製も始まっています。これらは、半導体がかつてそうであったように、未来の生活を豊かにする技術の種になるかもしれません。われわれの身の回りにあるモノには様々な性質があります。金属を例に考えて見ましょう。金属は、 ・電気を良く通します(電気的性質)。 ・表面に光沢があります(光学的性質)。 ・力を加えると延びるという性質があります(力学的性質)。 ・熱を加えると固体→液体→気体と変化します(熱力学的性質)。これら性質は、定量的な差はあるものの、多くの金属に共通してあるものです。このことを普遍性があるといいます。金属に限らず、われわれの身の回りにあるモノの性質には様々な普遍性があります。この普遍性はどこから来るのでしょうか。普遍性があるがゆえの共通のカラクリがあるはずです。私は日夜、モノの性質を決めているカラクリを解き明かそうと奮闘しています。モノの性質を理論的に解明するモノをどんどん冷やして、極低温にすると超伝導現象電気抵抗ゼロ完全反磁性理学科物理学コース研究から広がる未来卒業後の未来像モデル高分子の安定構造 このモデルでは(a)球形や、(b)螺旋形はエネルギーが低く安定。温度変化によっては(a)と(b)の間の転移が起こる。物体の状態方程式 図の曲面上に描かれた等圧線に沿って温度Tを下げていくと曲面が消失し、等圧線は高密度側に移る。このような密度pの不連続な変化は、相転移に伴う体積の変化を表している。大阪大学 基礎工学研究科 博士(理学)信州大学 理学研究科 修士(理学)静岡大学 理学部志水 久 准教授物性理論研究室卒業した学生たちは、基本的な考え方(物理法則)に基づいて物事(自然現象)を考えるスタイルを活かして、それぞれが自分の人生を主体的に生きています。人はいろいろな経験を通して、自然現象の結果を予測することができますが、現実が予測を超える場合もあります。そんなとき人は好奇心を掻き立てられると思います。物理学は、多くの人が抱いた自然現象に対する好奇心の結果として得られた法則の寄せ集めです。人類の理解が及ばず、結果を予測しきれない自然現象はたくさんあります。未知なるものへの探求には困難が伴いますが、そこに挑んで理解が進んだとき、知識の習得に加えて、自身の心の豊かさを得ることができます。相転移とは、物がおかれた環境に応じて物の様態が変わる現象を指します。このような現象は物が非常に多くの原子から構成されるときに起こる現象で、相転移が起きるとき物全体の様々な性質が突然変化します。例えば、水を1気圧で100℃より高温の環境においておくと気体(気相)ですが、圧力を1気圧に保ったまま100℃より低い温度まで冷やすと液体(液相)に変わります。物理学では自然界で起こる現象はエネルギーが低くなる方向に起こると考えています。従って、前述の水の変化は温度が変わることで気体と液体のエネルギーの大小関係が入れ替わることで生じると解釈できます。このようなことを物理法則に基づいて理解するために、物を構成する粒子の運動を記述する方程式を解いて、その結果から物のエントロピーを求める研究を行っています。相転移の解明に向けて(a)(b)

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