2021_信州大学環境報告書
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Shinshu University Environmental reportSDGs(持続可能な開発目標)の考え方が広まり、あらためて自然エネルギーへの関心が高まっている。そうした中、国内で1年間に使用されないまま廃棄される熱の量は、一般家庭で消費される電力量に匹敵する状況だという。阿部特任助教は、熱が発生する工場などの施設からそれを必要としている一般家庭などへと熱を届けるシステムを想定し、その実現に向けた研究に取り組んでいる。■未利用熱活用の2つのキーワード未利用熱が発生する場所としては、例えば、工場やごみ処理場などの産業施設が挙げられる。こうした施設は郊外にあり、熱を必要とする住宅やオフィスとは離れているケースが少なくない。そこで特任助教が注目するのが、「スラリー(固液二相流)」と呼ばれる固体と液体が共存する状態だ。固体が液体へと変化する間、熱を吸収して温度が一定になるという性質がある。これは、液体が固体へと変わる時も同じだ。その性質をうまく利用することで、離れた場所を輸送する間も、一定の温度を維持しながら運ぶことが可能になるという考え方だ。加えて、固体から液体になるときに熱を多く蓄えられる「エリスリトール」を利用することで、無駄の少ない熱輸送を実現しようとしている。糖アルコールの一種のエリスリトールは、天然の甘味料として低カロリー食品などに使われている。しかも、比較的安価に手に入れることも大きな利点だ。スラリーとエリスリトール。両者の利点を組み合わせることで、効率的な熱輸送システムを構築しようとしている。■配管による輸送でコストダウンを狙う現在すでに利用されている熱輸送の仕組みは、蓄熱材入りのタンクをトラックで運ぶ方法だ。この方法は輸送管を使わないことから「オフラインシステム」と呼ばれている。しかしこの方法では人件費がかかるため採算性が低く、広く普及するには至っていないのが現状だ。その点、この研究で想定している配管による輸送システムは、設備を導入する初期コストこそかかるものの、長期的な視点で考えると経済的メリットが大きい(図1)。そこで阿部特任助教は、スラリー状のエリスリトール(エリスリトールスラリー)を水に溶かして配管輸送することを想定。懸念される問題として、輸送の過程で水溶液の温度が下がり、溶けきれなくなった固体が配管に沈殿・付着することだ(図2、図3)。最悪の場合、管が詰まってしまうことも考えられる。通常、スラリーの流れにくさの指標として粘度を調べる場合、この「付着」が起きない条件を整えて実験をする。しかし、特任助教はこうした現実的な問題を検証することに意義を見出している。「管が詰まるメカニズムの解明に加え、その評価方法を確かなものにすることで、将来的な熱輸送システムの実用化に貢献したい」とする。阿部 駿佑2016年 信州大学工学部機械システム工学科卒業2018年  信州大学大学院総合理工学研究科     修士課程修了2021年 信州大学大学院総合医理工学研究科     博士課程修了工学部 機械システム工学科 特任助教 阿部 駿佑 未利用熱を無駄にしない。SDGs実現に向けた熱輸送システム構築へ2-2 環境研究02環境への取り組み図1 配管による熱輸送システムのイメージ図2 結晶が管内に沈殿する様子図3 管内に付着した結晶の様子24

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