2021_信州大学環境報告書
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研究成果論文理学部 理学科地球学コース 研究支援推進員 津金 達郎 地盤環境と災害リスク 大局的には平坦な地形である松本盆地であるが、その盆地内部の地形は、扇状地や段丘、氾濫原、自然堤防、旧河道といった様々な地形要素が折り重なりながら構成されており、その標高差は400m近くあり、単純な平面ではない。人が暮らすのに利便性が高い盆地地形ではあるが、斜面を段々の水平面に改変し利用してきた歴史もある。そんな自然地形、人工地形の下には必ず地盤があり、その地盤はその場の地形形成史によって様々である。 地盤の構成要素の大半は礫・砂・泥であり、これらは山地から土石流や洪水といった水の営力で運ばれてきたものなので、見方を変えると地盤(及び平坦な地形)は水害の賜物ともいえる。また、地盤には様々な硬さがあり、軟らかい砂や泥が厚くたまっているとそこを通過する地震波が増幅され、より大きく揺れる。このような特徴を用いて、筆者が属する信州大学震動調査グループは、ここ10年の間に松本市・大町市・安曇野市の各市との事業として地盤データを収集し、揺れやすさマップを作成・公開してきた。 松本盆地の中では松本駅から松本市役所にかけての中心市街地一帯は軟弱な地盤が厚いため、松本盆地一の揺れやすい地域となっている。この地域は田川に薄川、女鳥羽川が合流し、さらに奈良井川と合流する低地であり、洪水による泥や砂が堆積しやすい地域で、過去には低湿地環境が続き有機質土なども形成され、より軟弱な地盤が形成された地区もある。加えて、この中心市街地には活断層での大地震発生確率が日本一高いとされる、牛伏寺断層(糸魚川-静岡構造線断層帯の一部)もはしっている。2011年6月30日に松本で大きな被害があったM5.4の地震は牛伏寺断層の西に平行する未知の断層で発生した。この地震で揺れやすい地盤の地域では周辺より強い揺れに見舞われた。このように糸魚川-静岡構造線断層帯ではなくても、大きな被害につながる地震を起こす未知の断層が松本盆地の下には数多く隠されており(伏在断層)、前述した3市の調査では微動アレー探査から地下の地質構造を読み解き、伏在断層の位置を推定してきた。 筆者個人としては過去35年ほどの期間の震源データを3次元で解析し、長野県内で多数の伏在断層を見出した。2021年の上高地群発地震では活動の推移の中で複数の震源断層面を判読し、1998年の群発地震の推移と比較しながら、その後の見通しを発信してきた。1998年群発地震以降の活動と比較すると、今後、松本盆地直下で被害につながる規模の地震が発生する可能性もあるので、最新の活動にも常に注目している。研究成果論文図 上高地周辺の活動的断層(震源分布解析による)21

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