2021_信州大学環境報告書
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Shinshu University Environmental report02環境への取り組み修士論文総合理工学研究科 市川 雄貴 諏訪湖における水質浄化とリン循環に関する研究■ 研究の背景 湖では湖底が貧酸素化すると、底質から鉄と共にリンが溶出することが知られています(図1左側)。浅い湖沼ではその影響が湖全体に及びやすいため、このリン溶出は富栄養化の原因の一つとされています。諏訪湖では夏期における湖水の貧酸素化が現在でも発生していますが、かつて夏期に見られていた湖水中リン濃度の増大は、現在ではほとんど見られません。このような諏訪湖におけるリンの動態の変化を解明することは湖沼の水質管理にとって重要な知見になると考え、諏訪湖の湖水や底質を対象とした調査から「現在の諏訪湖におけるリン動態を捉える」事を目指しました。■ 結果・考察 溶存酸素濃度・酸化還元電位の調査から、夏期における諏訪湖の底質直上はリン溶出が起こる貧酸素・還元的な環境であったのに対して、湖底から数十㎝上部の水深5mでは貧酸素ではあったものの、基本的には酸化的な環境であったことが確認されました。 底質に含まれる全リン濃度は1年を通して2000µg/g前後で推移し、季節変動は見られませんでした。その反面、水深5mにて採取された新生沈殿物では夏期になるにつれて全リン濃度の上昇が確認され、易還元性で鉄と共に溶出・沈殿するCDB無機態リンの割合が増加する傾向が見られました。また、この沈殿物中の鉄濃度も夏期には高くなっていました。 これらのことから、近年の諏訪湖では夏期において鉄の還元に伴い底質からリンが溶出しても、水深5m付近で酸化され粒子態となった鉄がリンを再び吸着し、沈殿するというリン循環が湖底付近で生じるため(図1右側)、湖表層のリン濃度が低く保たれていると考えられました。また、この底層におけるリン循環は夏期に生じる水温成層による表層と底層との鉛直混合の阻害が一因となっていると考えられました。 一方、先行研究から、1980年の諏訪湖の底質は現在よりも高濃度の有機態リンが存在していた事が確認されており、かつて諏訪湖全体で見られた夏期の湖水中リン濃度の増大は、有機態リンの分解により生成された無機態リンが湖水の混合により湖全体へ拡散したものと考えられました。修士論文修士・卒業論文・研究成果論文2-1 環境教育図1.浅い湖沼における底質からのリン溶出(左)・現在の諏訪湖におけるリン循環(右)図2.諏訪湖における底質採取の様子(b) 18

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