2021_信州大学環境報告書
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私は、2009年に信州大学理学部に入学し地質学を専攻した後、同大学大学院理工学系研究科、同大学院総合工学系研究科へと進みました。博士後期課程とアソシエイト研究員時代には、堆積学と堆積岩岩石学を主な専門分野とし、過去の土壌・風化環境に関する研究を行いました。2019年からは、長野県環境保全研究所 自然環境部 温暖化対策班において、長野県内の地質や温暖化影響に関する調査研究と学習交流事業を通した情報発信を行っています。私の主な研究対象は、“古土壌”です。古土壌とは、地層に保存された過去の土壌のことです。現在の地球上には、その地域によって様々な色や構造をなす土壌が分布しています。こうした土壌の多様性は、気候や地形、地質などの違いによって生じますが、これは過去の土壌である古土壌でも同じことがいえます。したがって古土壌は、古気候や古地形といった過去の陸上表層環境の記録媒体として、好適な研究対象といえます。私は、信州大学に在学中、1000~250万年前の温暖期の古土壌に注目し、洪水や土石流といった水害の履歴を復元したり、気候変動、特に地球規模の温暖化や東アジア・夏季モンスーンの強弱について検討しました。古土壌研究を通して、気候変動が土壌、水害、風化、微地形といった陸上環境に、どのような影響を及ぼすのかについて興味をもつようになりました。現職に就いてからは、ボーリングコアなどを対象として(右写真)、最終氷期末~完新世にかけての地球温暖化による陸上環境応答について研究を行っています。最終氷期は、今から1万年ほど前に終了した寒冷な時期ですが、その後半には、急激な温暖化や“寒の戻り”を繰り返していたことがわかっています。この振幅の大きな気候変動が、土壌化、土壌栄養塩類の流出、湖の生物活動といった陸上環境にどんな影響を与えたか、明らかにしたいと考えています。過去の環境変動の履歴は、現在の環境の成り立ちを理解するだけでなく、将来の気候変動による環境影響を予測する上で、実証的なデータになると期待しています。また、私が所属する長野県環境保全研究所では、調査研究だけでなく、サイエンスカフェなどの学習交流事業や情報誌の発行を行い、研究成果や信州の自然環境についての情報を発信しています。そうした情報が自然環境を考えるきっかけになればと願っています。私が信州大学で得たことは、抱いた興味を深掘りすること、研究などの成果を発表する力だと思っています。現在、地球温暖化や自然破壊などの環境問題への理解と対応が社会全体で求められています。大学の授業や実習、ゼミでは、そうした自然環境について学んだり、考えたり、発表する機会が多くあると思います。信大生の皆様には、そうした機会を逃さず、自身が興味を持っていることを放置せずに掘り下げていってもらうと良いと思います。現在の仕事と環境問題とのかかわり環境と生きる人づくり (OB・OGの環境活動)長野県環境保全研究所自然環境部 葉田野 希さん葉田野 希・はたの のぞみ2018年 9月   信州大学大学院         総合工学系研究科 修了2018年10月~ 信州大学アソシエイト        研究員2019年 4月~ 長野県環境保全研究所        自然環境部諏訪湖畔でのコア掘削コアの断面を記載特 集11

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