統合報告書2021
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世界の豊かな生活環境と地球規模の持続可能性に貢献革新的﹁な造水・水循環システムの﹂社会実装・海外展開いよいよ最終段階に入った海水淡水化プロジェクトタープラザ(福岡県)にあるパイロット試験施設で、実海水を使った実証実験を行っています。ナノカーボンRO膜は、信州大学が誇るカーボンナノ材料技術を用いて開発した、脱塩性、高透水性、ロバスト(頑強)性、耐ファウリング(防汚)性を併せ持つ、高機能な水分離膜。2021年秋には、サウジアラビア海水淡水化公社の協力を得て、アラビア湾の実海水を使った国際的な実証実験も始まります。SDGs達成にも貢献する、安全で豊かな生活を支えるサスティナブルな水循環社会の実現に向け、最終段階となる研究開発が進んでいます。プロジェクト最終段階の現在、モジュール開発が進み、いよいよ海外での実証実験に着手地球上で人類が利用可能な淡水源は、全体のわずか0.01%に過ぎません。アクア・イノベーション拠点(※)は、海水をはじめとする多様な水源から使える水をつくり、循環させる「革新的な造水・水循環システム」の構築を目指し、信州大学のシーズを活かしたバックキャスト型の研究開発を推進してきました。なかでも(株)日立製作所・東レ(株)と進めている海水淡水化プロジェクトでは、環境にやさしい海水淡水化プラント(Green Desalination)の実現に向け、高機能な水処理膜「ナノカーボンRO(逆浸透)膜」を用いたモジュールを開発。既に北九州ウォーモジュールを見る遠藤守信特別栄誉教授(※)2013年、文部科学省および科学技術振興機構が推進する「革新的イノベーション創出プログラム(COI STREAM)」の拠点のひとつとして採択大型製膜装置アクア・イノベーション拠点は、計9年間のプロジェクト期間中に、基礎研究から応用研究、開発研究を経て、社会実装の準備段階に至るまでの各プロセスを進める計画を立ててきました。プロジェクトの最終段階に入る2021年度は、海外展開も見据えアラビア湾の実海水を使った実証実験もスタート。中東海岸地域は大型海水プラントが世界で最も高密度で設置されている地域で、濃縮廃水による海洋汚染が課題となっています。既存の海水淡水化システムの多くは、用途に応じて、次亜塩素酸ナトリウム、塩化第二鉄、硫酸など、さまざまな薬品を多量に使用しており、海洋環境に悪影響を与えてきました。ナノカーボンRO膜を使用すれば、その高い性能から薬品量を大幅に削減でき、メンテナンスの間隔も約3倍にまで長くすることができるため、海洋汚染を防ぎ、環境保全にも貢献できると期待されています。24Shinshu UniversityIntegrated Report 2021TOPICS海水や不純物を含む水など多様な水源から、飲料水や生活・農業・工業用水など“使える水”を造り出し、健全な水循環社会の実現により、世界中の人々の生活の質(QOL)向上に貢献します。研究開発課題アクア・イノベーション拠点 社会実装に向けたロードマップモジュール製造装置【実装】社会ニーズの把握、バックキャスティングの継続的推進社会実装推進【用途技術】海水淡水化の低コスト化超純水製造・分離膜・モジュール化の要求事項の把握、候補技術の比較検討再生水システム構築POU*浄水システムの高度化【基盤技術】分離膜・モジュール化技術革新的分離膜・モジュール化基本技術確立、周辺技術、システム化技術検討周辺処理技術システム化技術【水科学】水関連科学技術水分子モデルおよび水環境モデルの構築水環境評価技術*POU:Point of Use, 使用場所設置型Integrated Report 2021 Shinshu UniversityPhase 12013年〜Phase 22016年〜実装上の社会課題解決各用途分野における所定の分離性能実証、カーボン膜の優位性確認実用的なレベルでの分離膜・モジュール化技術確立、前後処理システムの総合検討水分子と膜の相互作用解明および、水環境の予測と検証Phase 32019年〜2022年〜2030年パイロットテスト実際の海水による性能実証、POU浄水システム開発、超低圧ロバスト膜モジュール化プラント化等の検討、他技術へのフィードバック、基盤技術の統合、全体システムの最適化実使用時を考慮した解析、特性改善の提案、水環境評価指標の適用と標準化世界の水問題を解決するアクア・イノベーション拠点(COI)

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