(差替版)A4_総合人間科学系研究紹介_2021x4 (7)
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どんなことにも、始まりとその後の過程があります。現在、ゲノム編集とよばれるDNAの改変技術の始まりは、プラスミドと制限酵素の発見です。当時、無限の可能性を確信した人も、恐怖を感じ研究をやめた人もいました。その後の過程における第一歩は、重要性を理解した200人に満たない研究者が集まり、社会における位置づけを示したことでした。それがアシロマ会議です。以降40年、技術的には自由自在ともいえる時代になりました。しかし、当然、未解明なことも多々残っています。アミノ酸代謝と組換え装置の相互作用もそのうちの一つです。生物学や環境科学関連科目を担当しています。カビやキノコなどの菌類の中で生きた植物に寄生する菌類を植物寄生菌類といいます。植物寄生菌類には、いもち病菌やうどんこ病菌のように農作物に大きな被害をもたらす重要な病原菌がある一方で、森の中で特定の植物と微妙な栄養関係を結んで細々と寄生生活を営んでいるものもあります。菌類は従属栄養生物であるため、生活の糧を他の生物や生物由来の有機物に依存しています。したがって、植物寄生菌類にとって植物との関係はきわめて密接で不可欠なものであり、寄生者と宿主間の多様な相互関係をみることができます。下から積み重ねるにせよ、上から網をかぶせるにせよ、細胞内のできごとを動的に描ききることは、理由を問う必要もない、大きな夢です。アミノ酸の代謝系とDNAの組換え(損傷修復)系の相互作用は、なぜ備わっているのか? いつ、何をしているのか?簡単には説明することができません。しかし、そのようなつながりを丁寧に理解し、積み重ねることで、細胞の解像度が高まり、完成に近づきます。この10年、20年、40年間におこったことを考えれば、10年後、20年後の想定にもとづいて現在の行動を決めることは、多くの人にとって確かな意味はないでしょう。今、見えているものに誠実に向き合う。その積み重ねを大切に。植物寄生菌類を通して植物における病気の実態を明らかにすることは、農作物や有用植物の病害防除を考える上で必要不可欠な基礎データとなります。また、宿主と寄生者の相互関係の解析によって、生態系における菌類の役割や機能が明らかになることが期待され、生態系や自然環境の保全などのさまざまな環境問題においても重要な示唆を与えるものと考えられます。菌類や微生物も含めた多様な生物の存在や在り方について広く理解を深めることによって、ヒトと環境との関わり方について広い視野で考えられるような社会人になってもらいたいです。伊藤 靖夫 准教授1994年 鳥取大学大学院連合農学研究科修了(博士�農学) / 学術振興会特別研究員(PD)を経て1996年 信州大学理学部助手(生物科学科)/ 2006年 全学教育機構(准教授)/ 現在に至る。今津 道夫 准教授筑波大学大学院農学研究科博士課程修了(博士・農学)。筑波大学農林学系助手、千葉大学真菌医学研究センター講師、信州大学農学部助教授を経て、2006年全学教育機構に着任。71975年2月24-27日 米国カリフォルニア州モントレー半島のこの場所でアシロマ会議が開催されました細胞にDNAを加えると、様々な変化がおこりますナシの赤星病菌はナシの葉や果実に感染して胞子を生じるが、この胞子はビャクシン類に感染して異なる胞子を形成する。アスナロの天狗巣病菌は葉に感染して不定芽を生じ、これが成長して鳥の巣状の病徴となる。初夏の頃、不定芽上に胞子を形成し、この胞子はダケカンバやミズメに感染して宿主交代する。ナラタケは倒木や切り株上に群生するが、強い病原性が知られる。自然科学教育部門自然科学教育部門遺伝子を変える 細胞を描く植物寄生菌類の生態を明らかにし、植物と菌類の相互関係について考える

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