保健学科_研究紹介2021
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―23―検査技術科学専攻薬剤耐性菌を俯瞰する 新規抗菌薬の開発が遅滞するなか、基質特異性拡張型β-ラクタマーゼ (ESBL)産生菌、カルバペネマーゼ産生腸内細菌科細菌 (CPE)などの世界的広がりがヒト臨床分野及び公衆衛生上深刻な問題となっています。これら薬剤耐性菌の早期検出は医療関連感染対策の要であり、研究グループでは臨床治療上重要なESBL産生菌や新型CPEなどの新知見を報告してきています。さらにヒトと密接に関わる愛玩動物、食品、生態系環境にまで研究対象を広げ、ダイナミックな薬剤耐性菌の循環動態について研究しています。また、新生児重篤感染症の主要な原因菌であるB群レンサ球菌で、治療第一選択薬のペニシリンに低感受性を示す菌株を確認し、この分野での世界の研究をリードしています。 46億年の地球史のなかで微生物は様々な天変地異を乗り越えて生き残るべく、多様化、進化を繰り返してきました。病原性遺伝子や薬剤耐性遺伝子を、ヒトに定着性の高い遺伝系統の臨床細菌が安定的に保持しながら伝播・拡散してゆく戦略は臨床の現場でしばしば遭遇する事象です。ヒトとそれをとりまく生態系環境の中で薬剤耐性菌の動態をとらえることで、人類が直面している耐性菌問題の解決に貢献します。 自らが主体となって研究課題の設定、適切な解析アプローチの構築、慎重且つ正確な実験、多面的・多角的な考察に取り組めるような論理的思考力、実行力、発言力を培う努力がこれからの未来に必ずや役立つと信じています。 病因・病態検査学研究から広がる未来卒業後の未来像ヒト-生態系環境における薬剤耐性菌循環動態解明のための包括的研究北里大学大学院医療系研究科医科学専攻環境医科学群環境微生物学修士課程修了後、同大学院医学専攻環境医科学群環境感染学博士課程修了 (医学博士)。2014年医学部保健学科に着任。長野 則之 教授愛玩動物 (イヌ、ネコ、 ウサギ)由来MRSA株の系統ネットワーク解析研究グループでは愛玩動物由来MRSA株とヒト臨床由来MRSA株の遺伝的関連性を明らかにしているWGS解析により明らかにしたリネゾリド耐性遺伝子optrA保有プラスミドのcomplete sequenceリネゾリドはMRSAやVREに起因するヒト感染症の重要な治療抗菌薬である検査技術科学専攻アポリポ蛋白の臨床化学的研究から新しい臨床検査を創造する病因・病態検査学研究から広がる未来卒業後の未来像山内 一由 教授 学生時代から臨床化学に興味を持ち、以来一貫して臨床化学に携わってきました。臨床化学は、分析技術を駆使して特定の生体成分の臨床的意義を解明しその成果を医療に還元していく学問です。すなわち、分析力を強みとする臨床検査技師が最も活躍できる領域であり、それこそが臨床化学の最大の魅力です。当研究室では、アポリポ蛋白E(アポE)という蛋白質を対象として、動脈硬化症やアルツハイマー病をはじめとするアポE 関連疾患の早期診断と予防に有用な臨床検査法の開発を目的として研究に取り組んでいます。特に現在は、酸化ストレスなどに伴うアポE 分子の翻訳後修飾が脂質代謝や免疫調節などの諸機能に及ぼす影響について分子レベルで解析しています。 生体分子はその名の通り私たちが生きていくために必要な成分です。どんな分子でもその他多くの分子と相互に作用しながら何らかの重要な機能を担っており、その破綻に伴う疾患の発症にも必ず関わっています。もしかしたら着目した分子は疾患の発症にとって脇役なのかもしれませんが、その分子が関与する病態生理機能を追求すれば主役を突き止めることができ、当該分子の脇役としての重要性も明らかにできます。その成果は明日の医療に還元することができます。 医科学を検査技術科学の視座から学ぶことにより身に付く分析力が臨床検査技師の最大の強みです。卓越した分析力があれば、最新・最良の医療を提供することができますし、医療人としてのキャリアの可能性も大きく広がります。アポEが関与する主な生体機能と疾患・病態信州大学医療技術短期大学部卒、東京理科大学卒。信州大学大学院工学研究科修士課程・博士課程修了。信大病院臨床検査技師長、筑波大学医学医療系准教授を経て2021年より現職アポEの主なアイソフォームの基本構造血清と髄液中のアポE(ウェスタンブロッティング)アポEには主に3種類のアイソフォームE2, E3, E4 が存在し、その組合せによりホモ接合体とヘテロ接合体を併せて計6種類の表現型が存在する。

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