保健学科_研究紹介2021
23/38

―22―検査技術科学専攻病態機序の解明・検査法の開発を通して、臨床検査に還元できる研究を目指します 病院勤務では主に血液検査を担当し、試薬・機器検討、稀少症例や異常反応を示した症例の解析、企業との共同研究など日常業務がきっかけとなった臨床研究に取り組んできました。現在は血液凝固因子の「フィブリノゲン」について研究しています。近年、フィブリノゲンは血液凝固機能だけでなく組織修復・創傷治癒、血管新生・がん細胞転移、異常蛋白蓄積など、多彩な細胞外マトリックス機能も備えていることが分かってきました。基礎研究として創傷治癒不全や異常蛋白蓄積に関する病態機序の解明に取り組むとともに、臨床検査技師として日常検査に応用できるような新しい検査法の開発を目指しています。信州大学医学部保健学科卒業。同大学院博士課程修了(医学博士)。信州大学医学部附属病院臨床検査部で勤務し、2020年より現職。新井 慎平 助教 過去多くの研究者によってフィブリノゲンの血液凝固機能が研究され、臨床検査項目として広く普及してきました。しかしながら、細胞外マトリックスに関する研究やその破綻によって発症する疾患についての研究は発展途上です。基礎研究を通して疾患の治療や予防に貢献し、臨床検査への応用を通して社会貢献できる可能性があります。本学で習得できる知識・技術は医療現場における臨床検査の実践につながり、困難な課題にも対応できる応用力はニーズに柔軟に対応できる能力となります。医療現場や研究機関などで活躍し、医療および公衆衛生の向上に寄与できる人材になってほしいと思います。生体情報検査学研究から広がる未来卒業後の未来像フィブリノゲンはトロンビンによって不溶性のフィブリンへと変化する(電子顕微鏡像)。異常フィブリノゲンが小胞体に蓄積してしまうフィブリノゲン蓄積病。顆粒状・繊維状の封入体が認められる(右の画像)。凝固波形解析を応用した新規フィブリノゲン測定法の開発LGL白血病細胞に関するフローサイトメトリーによる解析(左)と次世代シークエンサーによる遺伝子解析(右)の一例検査技術科学専攻腫瘍と非腫瘍の接点;その違いはどこにあるのか? ―血液細胞から探る― 血液中にはさまざまな血液細胞が流れていますが、時にはそのバランスが破綻します。赤血球が足りなくなったり(=貧血)白血球が腫瘍(=白血病)になったりするのはその一例です。血液検査学および血液病学は血液細胞の異常や凝固システムの問題を検査からとらえ、その病態を把握し、背景にある疾患の診断および治療を通して、ヒトの健康の維持に貢献します。 当研究室では白血球のひとつである大顆粒リンパ球(large granular lympho-cyte; LGL)の白血病および貧血の一種である赤芽球癆を中心に、細胞の特性、遺伝子変異、臨床的特徴や免疫異常といった多方面から解析しています。血液細胞の腫瘍と非腫瘍の違いの本質を見極めることをめざしています。信州大学医学部医学科卒業。同大学院博士課程修了。信州大学医学部准教授・血液内科科長を経て、2012年から現職。骨髄不全やリンパ系腫瘍の病態解析と新規治療法開発について研究している。石田 文宏 教授 医学が進歩すると、新たな未知の領域が展開します。近年の遺伝子解析法の進歩により、腫瘍の遺伝子異常に関する詳細が明らかになり、全貌がわかるのも間近です。一方、非腫瘍性の細胞にも遺伝子異常があることが判明してきています。従来、腫瘍の特徴と考えられてきた遺伝子異常が、非腫瘍の細胞にも存在する事実は何を意味するのか? 腫瘍と非腫瘍の違いは何か? 腫瘍と遺伝子について、パラダイムシフトがおこりつつあります。 血液の異常にかかわる臨床検査技師や医師にとっては、AIの進歩にもかかわらず、顕微鏡でみる血液細胞の理解が必須です。そして、その背景や現象を研究し成果を世界に発信することは、未来の医療と患者さんへの還元につながります。病因・病態検査学研究から広がる未来卒業後の未来像血液1滴から、血液塗抹標本を作成する。血液細胞の異常を知る第一歩光学顕微鏡でみた大顆粒リンパ球(LGL)(総合倍率 1,000倍)

元のページ  ../index.html#23

このブックを見る