経法学部研究紹介_2020_2021_プレス品質
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8応用経済学科途上国における貧困対策には何が重要か 開発経済学の立場からフィールドワークを重視しつつ、途上国の貧困削減に関する主要なテーマである、農村家計や個人の意思決定に関する実証研究を進めています。具体的に例えば、ミャンマーの出稼ぎ労働者を対象とする論文では、同じ年齢と職業の未婚女性であっても、貧しい家庭出身の女性労働者ほど、送金して家族のつながりを維持することよりも、将来の結婚相手を探すための「婚活」へ投資していることを解明しています。その結果、出稼ぎの便益は貧困家庭には届かない可能性があるため、その貧困削減効果が限られていると言わざるを得ません。 こうした研究を通して、実際に途上国における貧困対策には何が重要なのかを解明し、実際の貧困削減へと繋げるように努めています。 一般的な統計に表れない家計と個人の生産・生活に関して、細部までのデータを収集し、それらのデータや情報に基づいて、家計と個人のミクロ的なインセンティブに着目した研究をしています。その理由は、本人が勤務した貧困削減を目指して援助を行う国際機関などが、援助を受ける貧困対象のインセンティブを重視していないと反省したからです。したがって、今までの研究成果を生かし、対象のインセンティブを重視した開発経済学の分析成果を途上国の貧困削減の実践に結びつけることを目指しています。 学生は、単なる知識として開発経済学を勉強するのではなく、その知識の背後にある経済学の考え方を理解することで、今後のキャリア計画においてより良い意思決定に役立つと思います。さらに、大学が提供する海外留学やインターンシップ・ボランティアなどのチャンスを逃さないよう、コンフォートゾーン(慣れた場所や生き方)から抜け出して、世界に羽ばたいてほしいと願っています。翟 亜蕾 講師2013年京都大学大学院経済学研究科修士課程修了。国際NGO(HPA)専門調査員、日本学術振興会特別研究員を経て、2018年経済学博士(京都大学)取得。同年より京都大学大学院経済学研究科特定助教を経て、2020年より現職。左:ご飯を食べながら大事な「おもちゃ」を守るミャンマーの男の子右:サトウキビ畑で一日10時間以上働くミャンマーの児童縦軸:送金額の観測値横軸:家庭資産の推定値ミャンマー人出稼ぎ女性は、出身家庭が貧しいほど(家庭資産が少ないほど)、親への仕送りが少なくなる傾向にあることがこの散布図から読み取れます。研究の未来と卒業後の将来像・ミャンマーの麻薬撲滅運動とそれが農村貧困家計に及ぼす影響・出稼ぎ女性の送金行動の意思決定・武装紛争が農村家計および農村金融市場へ及ぼす影響・越境するミャンマー人による中国国境地域の農村労働・結婚市場への参入要因主な研究事例応用経済学科金融取引のリスクを計量する 数理ファイナンスや金融工学の研究をしています。この分野では、金融派生商品(デリバティブ)の公正価値や、金融市場における取引戦略を数理的な観点から分析します。数学の一分野である確率論、特に確率過程の理論を応用し、金融資産の価格の動きをモデル化し、リスクやリターンなどを計量します。また、モデル・リスクといい、不適切なモデルを使うことによる影響を評価することも研究対象です。例えば、リーマンショックの原因となったサブプライム・ローン関連の金融商品に使われていた評価モデルは、適切ではなかったと言われています。金融取引は、近年ますます複雑になり、価値やリスクを適切に評価することが求められています。 金融市場はバブルや金融危機を繰り返し、教訓や経験を蓄積しているものの、金融危機は10年程度の周期で訪れています。さらに、各国の市場は連動性を高め、金融危機の規模はますます大きく複雑なものになっています。私の研究は、金融取引のリスクを分析し、適正に評価することですが、この研究が金融市場の安定化の一助となることを期待しています。 学生は、金融市場を定量的・数理的な視点から客観的に分析する力と、金融取引とそのリスクを正しく認識する金融リテラシーを、習得します。また、今日の金融市場は、情報技術や金融技術により資本・リスクの移転が容易になり、地域金融もグローバルな金融市場とつながっています。グローバルな視点を持ちつつ、地域の金融に貢献できるような人材を育成することを目標としています。銀行・証券・保険などが関連する産業ですが、社会現象を数理的な観点から分析する能力は、今日の情報化社会においては、分野を問わず役に立つと思います。都築 幸宏 准教授2000年京都大学理学部卒業、2002年東京大学大学院数理科学研究科修了、2015年同大学大学院経済学研究科博士課程修了、2002年より民間企業に勤務、2016年東京大学大学院経済学研究科特任講師を経て、2017年より現職。研究の未来と卒業後の将来像 金融派生商品の公正価値の評価およびリスク管理手法を数理的な観点から研究しています。特に、資金調達コストを考慮した金融派生商品の価格の研究をしています。コストを価格に転嫁するという点では合理的ですが、資金調達コストは信用力から決まり、評価主体の個別性が強くなります。このような価格を公正と呼んでいいのかが、この研究の難しいところです。オプション価格には、市場参加者の将来の株価に対する予想が反映されている主な研究事例

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