経法学部研究紹介_2020_2021_プレス品質
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5 応用経済学科データを用いて家計の税負担を明らかにし、証拠に基づく政策立案に貢献する 経済学の中の一分野として、政府の公共政策に関する問題を扱う「公共経済学」が専門分野です。特に家計の税・社会保険料の計測や、税制による再分配効果の評価などについて、データを用いて分析しています。こうした取り組みでは過去や現在における税負担の実態を捉えるばかりでなく、家計収入などのデータに現実の税制を適用して税額を推計することで、導入前の諸政策が家計の税負担に及ぼす影響もシミュレーションすることができます。近年、政府では正確な実態把握や政策効果の検証・試算といった目的から、データを利用して「証拠に基づく政策立案(Evidence-Based Policy Making, EBPM)」を推進しています。経済学に立脚したデータ分析はこうした「証拠に基づく政策立案」に貢献しています。 今日、「証拠に基づく政策立案」が強調される背景には、PCの能力向上やビッグ・データの蓄積が進んでいることも挙げられます。政府はそうしたデータの蓄積を多くのユーザーで利活用できる環境を進めたいとしています。こうした環境変化から、これまで捉えることができなかった新たな証拠(エビデンス)が発見され、新たな政策提案につながることが期待されています。 教育では、財務省を受入機関として、政策の企画立案や予算要求を模擬体験する実習(政策企画実習)も行っています。受講生は学んだ知識を活用するだけでなく、実際の政策づくりで求められる実現可能性、効果の目標(KPI)とそれが実現できなかった場合の対応(PDCAサイクル)なども踏まえて提案内容を検討します。 卒業後の進路は民間企業や公務員など様々ですが、データを用いてエビデンスを積み上げ、新しい提案を行うという経験は、どのような進路に進む際にも卒業生の力になるはずです。「政策企画実習」では、受講生がみずから政策を企画立案し、財務省の現役職員を相手に予算要求の模擬体験を行っています。また、高大連携の一環として政策コンテストを開催し、受講生は自分たちの提言を高校生にも分かりやすく伝えます。大野 太郎 教授2001年一橋大学経済学部卒業。2008年一橋大学大学院経済学研究科博士課程修了(経済学博士)。同年より財務省財務総合政策研究所研究官。その後、尾道市立大学講師・准教授、信州大学准教授を経て、2020年より現職。研究の未来と卒業後の将来像応用経済学科 産業政策・中小企業政策や、地球環境対策など幾つかの政策分野を取り上げ、「なぜ、このような政策が出来上がったのか」というメカニズムの解明を目指します。例えば皆さんは、ニュースで聞いたパリ協定のような国際約束が、ハイブリッド車や電気自動車の話を最近よく聞く…というような身近な社会の変化にどうやって繋がってくるのか、興味が湧きませんか?その過程には、各国間/国内における基本的な政策枠組の検討、個別の法律や規制の立案、予算や税制の折衝など、様々なレベルでの「政治」が絡んでいます。どんな人や集団が、どんな理想や思惑を持って、どのように影響力を行使してきたのかを解明することで、将来のより良い「国のかたち」を考えていきます。 今の日本は、従来の政策の枠組みが機能不全に陥って、大規模な作り直し(改革)が必要な分野が多くなっていると言われています。例えば、日本経済の新陳代謝を取り戻すためには、創業や新事業を活発化させる必要があると言われて久しく経ちます。少子化問題などもそうです。相当前から様々な対策が打たれているのですが、社会の「かたち」が変わるところまではなかなか至っていないというのが大方の見かたではないでしょうか。 過去の政策形成過程を研究して、どのような人が、何を狙ってどんな変革を推進し、どのような人が、どういう理由でそれを妨げたり変容させたのかを解明することで、今後の政策形成に役立てていきたいと考えています。 担当教員は、20年近く中央省庁で政策立案を担当してきましたので、徹底的に実学重視です。教室の授業では、具体例をふんだんに使い、演習・ゼミの受講生には、企業・行政の現場の視察や見学の機会も十分に設けます。公務員志望の学生も、民間志望の学生も、自分の将来を考えるヒントを見つけてほしいと思っています。・第二次大戦期・戦後占領期の内閣制度の改革(1998)・中小企業における仕事と育児の両立状況の分析(2006)・廃棄物処理・リサイクル制度の進展(2010)・化学物質審査規制法の制定過程(2015)・行政上の義務の履行確保制度の研究(2019)   など遠藤 幹夫 教授1997年東京大学法学部卒業、98年同修士課程修了、通商産業省(現・経済産業省)に入省。中小企業政策、金融危機対策、地球環境対策、通商・貿易政策、内閣官房等の担当を経て、2017年より現職。専攻は公共政策、行政学、行政史。CD地球温暖化対策推進法地球温暖化対策計画固定価格買取制度(FIT)国・自治体の補助金地球温暖化対策税制自主行動計画フォローアップJ-クレジット制度・・・政策形成過程(イメージ)国会・与野党関係省庁産業界環境NPO国民世論・・・環境省電気自動車経済産業省新エネルギー・エコカーの普及など社会の変化研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例政策の成り立ちを学ぶことで、「国のかたち」を考える・家族構成や収入などのデータに現実の税制の仕組みを適用して、世帯ごとに税額を推計します。こうした手法を利用すると、家計の税負担について実態を把握するだけでなく、導入前の諸政策が家計の税負担に及ぼす影響もシミュレーションすることができます。・税を通じて、家計の所得格差がどれくらい是正されるのか(再分配効果)を計測しています。税制における個別の仕組み(税率や各種の減税措置など)が再分配効果に及ぼす影響を捉えることで、具体的にどの仕組みが重要な役割を果たしているのかも分かります。主な研究事例

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