経法学部研究紹介_2020_2021_プレス品質
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4応用経済学科応用経済学科経済成長と所得格差の原因をコンピュータを用いた数理的手法で探求する マクロ経済学を専門に経済成長や所得格差について研究しています。以前は、なぜ日本経済が1990年代以降停滞しているのかを分析していました。そこから「なぜ日本 (に限らず先進諸国)で、1950~1960年代に高度経済成長が実現したのに、1970年代以降は経済成長率が落ちたのか?」、「それと同時に1970年代以降、先進諸国で所得格差が拡大した理由は何か?」に関心を持つようになりました。 研究は、数理モデルを構築し、数理モデルの理論値をコンピュータを用いて数値計算し、それをデータと比較して検証するアプローチで行っています。 研究室が挑む社会問題のひとつは「健康寿命を延ばし、高齢者の孤独死を防ぐにはどうすればよいか」。私たちは、この問題の解決方法のひとつとして“つながりと笑顔がある地域づくり・関係づくり”を研究しています。 “誰もが、住み慣れた家で、地域で、自分らしく安心して暮らし続けること”は、私たちが望んでいるふつうの幸せです。しかし今の私たちは、ふつうの幸せを達成するのが難しい時代を生きています。その背景にあるのが人口減少と少子高齢化の同時進行です。 ふつうの幸せを保障するしくみのひとつが「社会保障」です。しかし経済成長と人口増加を背景に作られたしくみのために、この社会問題を根本から解決できません。私たちはコミュニティヘルスを手がかりに、この問題の解決方法を探っています。 上にあげた経済成長や格差の問題は、社会的・政治的にも重要であるといえます。イギリスのEU離脱やアメリカのトランプ大統領の誕生等の2010年代の政治現象の背後には、人々が所得や生活に対する不満を抱えていたことにあるという分析もあります。経済成長や格差の原因を解明することは、マクロ経済学の分野でも未解決の難しい問題ですが、一歩一歩明らかにしていきたいと考えています。 教育では、研究でも使用しているプログラミングの技術を習得してもらい、これを用いてデータ分析できるようになることを重視しています。プログラミングに付随する、「複雑な問題を単純なブロックに分解し解決していく」アルゴリズム的考え方は、会社などで計画を立てて実行していく上で重要な技能です。しかしながら、多くの学生は、アルゴリズム的考え方に不慣れです。ゼミでは、教員・学生間で対話する演習形式で、こうした内容を習得していきます。 ゼミ生の卒業後の進路は、メーカー、銀行、大学院進学等です。 私たちの研究の軸足は「社会政策」と「社会調査」にあります。 社会政策とは、個人の力だけでは解決ができない社会問題を解決するための公共政策です。社会保障、社会福祉、健康政策、生活問題、地域づくり、教育、ジェンダー、労働などのテーマ群から成り立っており、高齢社会問題、格差社会と貧困問題、健康格差、各世代の生きづらさなど、現代的な社会問題の解決を図るための政策科学です。 研究室(ゼミナール)では、社会政策の考え方を身につけ、解決すべき社会問題を選び出し、その問題の背景を社会調査の手法で科学的に分析し、解決に向けた政策提言を導き出す研究をしています。 私たちが注目するコミュニティヘルスとは“自分で生き方を選ぶ自由が認められている”社会関係のなかで、“客観的にも認められる健康な状態で生活を送る”ことができる地域社会を創り出すことにあります。 研究室の卒業生は、市町村自治体の職員、NPOの職員として、政策提言に向けた基礎調査や地域づくりに主体的に取り組む仕事に就くことが期待されています。 1970年代以降、アメリカにおいて、最もお金持ちの人達の所得が国全体の所得に占める割合が増えています。人口の1%の高所得者の所得が、国全体の個人所得に占める割合を、「所得上位1%シェア」といいますが、これが増えているのです。これは高所得の人達とそれ以外の人達との格差が広がっていることを示しています。 私の最近の研究では、この現象を1970年代以降の税制の変化 (累進所得税の減税など)で説明する理論を立てて、数理モデルを作りました。数理モデルの値(理論値)と現実(実データ)を定量的に比較し、この理論で所得上位1%の変化をある程度説明できることがわかりました(上の図を参照)。アメリカの所得上位1%シェアのデータと理論値青木 周平 准教授井上 信宏 教授東京大学教養学部卒業後、東京大学大学院経済学研究科博士課程を修了し博士 (経済学) を取得。財団法人総合開発研究機構(NIRA)、一橋大学イノベーション研究センター、同経済学部を経て現職。1998年3月に東京大学大学院経済学研究科を修了、同年4月に信州大学経済学部に着任。2011年9月から教授。専攻は社会政策、社会調査。現在、コミュニティヘルスに注目して、人口減少・高齢社会における持続可能な地域づくり・関係づくりを研究している。ゼミナールでは研究テーマを選んでグループワークを重ね、研究成果を専門家や住民のみなさんの前で発表します。写真は認知症研究の発表風景で、行政職員や保健師、社会福祉士のプロフェッショナルの皆さんからコメントをいただきました。研究成果を社会実装することもゼミナールの研究のひとつです。理論で得られた成果をわかりやすく地域活動に活かす作業は、研究同様に大切なプロセスです。写真は松本市城北地区の高齢者サロンの場を借りてクリスマス会を企画・運営したときのものです。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例 2015年から信州大学経法学部がある長野県松本市と協力して、“つながりと笑顔がある地域づくり”の実践研究を重ねてきました。これは、住民の生活圏に行政職員や医療・介護・福祉の専門職、地域住民と協働で「地域包括ケア」と言われるコミュニティヘルスのある地域社会を創設する取り組みです。この取り組みには、研究室の学生も参加しています。 現在では、長野県下の自治体の協力を得て、未来人の視点で持続可能な社会システムを創り出す「フューチャー・デザイン」を社会実装するための研究をスタートしました。主な研究事例コミュニティヘルスの地域づくり・関係づくりから持続可能な社会システムを考える

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