経法学部研究紹介_2020_2021_プレス品質
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24総合法律学科家族にかかわる法制度を学ぶ 市民の生活関係を司る法律に「民法」がありますが、その中に「親族」「相続」という編があり、これらは一般に「家族法」と呼ばれています。人は、生まれて暫くは親に扶養され、成長して異性と結婚し、子をもうけ子を扶養し、その間に家族が亡くなると遺産を受け継ぎ、最後は自分が遺産を残して家族と別れを告げます。このような家族生活のあらゆる場面につき、成立・効果を定めたルールが家族法です。「法律は家庭に入らず」の言葉通り、家族法は家族が円満に生活する限りはあまり前面に現れることはありませんが、衝突やトラブルで相互間で解決できない問題が発生したときに、その問題を解く材料の一つとして機能します。その適正な解釈運用について深く学んでいきます。 家族法は、誰でもが必ず所属する家族という集団に関わる法規範であるので、その現状を学び、課題に向き合っていくことは、必ずみなさんの将来の役にたちます。 元々法律というルールは、自然「法則」と異なり、当該社会の価値観に根ざして作られており、価値観が変われば自ずとルールも変貌しますが、特に昨今、家族をめぐる価値観が大きく移り変わってきています。同性婚を認める、生殖補助医療技術を用いて子をもうけることを認める、生物学的には何の繋がりのない者同士に親子関係を認める、などの動きがこれにあたり、これらと家族法がどう向き合っていくかを考えることは、家族の一員として生活する皆さんにとってとても有意義なものとなるはずです。 家族法の知見と直結する職業は、法曹、家庭裁判所調査官、研究者などそれほど多様ではありませんが、家族間の紛争を具体的妥当な解決へ導くための思考を磨くことは、皆さんが卒業後どのような進路を取る場合でも、必ず自分の人生を切り拓く力になるはずです。 諏訪の末子相続と北信濃の均分相続-河合曽良と小林一茶の場合-(信州大学法学論集,27:115-178 2016,共著) Lawrence v Gallagher [2012] EWCA Civ 394 −シビルパートナーシップ解消に伴う財産の分配−(信州大学法学論集, 25:71-81 2015) 内縁関係の解消と居住用不動産の利用(2) : 死亡解消における非名義当事者の保護を中心に(信州大学法学論集,21:127-146 2013)法律学基礎演習Ⅰの授業風景。「無効」と「取消し」の効果の違いを班ごとに図解しています。宗村 和広 教授青山学院大学法学部卒業、専修大学大学院修士課程法学研究科私法学専攻修了(法学修士)、同大学院博士後期課程民事法学専攻単位取得退学、信州大学教養部講師、同大学経済学部講師・助教授、同大学大学院法曹法務研究科教授を経て、現職。研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例総合法律学科刑事法と国際法の両者にまたがる横断的な分野を探求する 刑事法と国際法が交錯する領域である、「国際刑法」が専門分野です。内容は多岐にわたりますが、一例を挙げると、国外で犯罪行為が行われたがその行為者が日本国内に所在するときに、いかなる範囲で日本刑法の適用が可能か(刑法の場所的適用範囲)、ジェノサイドのような国際法上の重大犯罪に関与した者の刑事責任を、いかなる理論的枠組の下で問うことができるか(国際犯罪に対する共犯の責任の範囲)といったものが挙げられます。また、現在では、越境的に活動する詐欺グループ等が、犯罪を通じて莫大な利益を得た場合に、これをいかなる方法ではく奪するか(犯罪収益の没収・追徴)についても、興味をもって研究を行っています。 「グローバル化」する社会の下で、各国が協力して犯罪の抑止に対応するときには、条約等により、各国(日本を含む)で従来存在しなかった、異質な法概念を導入するよう求められることも少なくありません(物議を醸したいわゆるテロ等準備罪もその一例でしょう)。しかし、新たな法概念の導入にはもちろんデメリットも存在しうるところであり、たとえば従来の自国の法体系を崩すことにもなりかねません。それを回避するためには、自国の制度および国際的に導入が求められている制度の両者と向き合い、整合させる努力が必要となります。「グローバル化」は否応なく進展する現象であり、このような姿勢はますます重要となっていくでしょう。 教育面では、犯罪抑止のための国際協力としていかなる制度が存在するのかについて学ぶため、講義(環境と刑法など)・演習(基礎演習)の授業を実施しています。これらを通じて培った文献・統計調査能力、日本刑法・国際法にまたがる横断的な知見は、民間企業・公務員のいずれを目指すにあたっても、有益なものたりえます。横濱 和弥 講師慶應義塾大学大学院修士課程修了(2011年)および同博士課程修了(2019年)。博士(法学)。その後、日本学術振興会特別研究員PD(京都大学)を経て、2020年より現職。研究の未来と卒業後の将来像 組織的に行われる特殊詐欺等に際しては、犯罪収益が行為者の手元に残らないよう徹底的にはく奪することが求められる一方、被害者をいかなる範囲で救済するかも問題となる。最近では、行為者が被害者に被害弁償を行った場合に、被害弁償額を追徴額から控除すべきかが争われた事案等が登場しているため、没収・追徴と被害弁償の関係を論じた論稿を公刊した。拙稿「特殊詐欺における没収・追徴と被害回復」法律時報92巻12号(2020年)55頁以下。ハーグ(オランダ)に所在する国際刑事裁判所(ICC)のエントランス。ジェノサイドをはじめとする国際法上の重大犯罪の訴追・処罰を任務とする。主な研究事例

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