経法学部研究紹介_2020_2021_プレス品質
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21総合法律学科総合法律学科人が公正に働ける社会を目指して行政組織法による行政統制について考える 私は、弁護士でもありますが、実務で遭遇する法律問題を学術的に研究したいという理由から大学教員として働くようになりました。 研究分野は、働き手についてのルールを定める労働法で、これまで、いわゆる正社員よりも立場の弱い非正規労働者(契約社員、パート社員、派遣社員など)を巡る問題に関心をもってきました。実は、身分が安定していると言われる公務員の世界においても「非正規公務員」と呼ばれる人たちがいて、民間の働き手と比べても、雇用や待遇が保護されづらいという現象があります。こうした特徴を持つ公務員の世界も視野に入れつつ、立場の弱い働き手にとっても働きやすい社会を作っていくにはどのような法理論が必要なのかについて考えています。 国や地方公共団体などが行う行政に関する法である行政法を専門としています。行政法の中でも、私は、行政の組織に関する法である行政組織法を中心に研究してきました。現在は、特に、行政組織法による行政統制のあり方に関心があります。具体的には、行政統制の一つの局面である裁判において行政組織法が働くか、働くとしてどのような裁判の帰結をもたらすかという問題を検討しています。さらに、今後、裁判以外の行政統制の局面において行政組織法がどのように働くかという問題を検討することを予定しています。 これまで日本社会では、終身雇用というシステムが存在し、働き手は一つの組織に定年まで働くというスタイルが一般的で、労働法は、そうした働き方を想定して構築されてきた面があります。しかし、現在、少子高齢化や経済のグローバル化等の影響により、ひとびとの働き方はますます多様化しています。上で述べた非正規雇用のように終身雇用ではない働き方が増えるにとどまらず、国籍や性別の違い、障がいの有無といった別の観点での多様化がこれまで以上にみられるようになるでしょう。働き手の多様化に対して労働法・公務員法がどう向き合うべきかが大きな課題となっています。 私の教育活動としては、主に民法や法学の入門的講義・演習を担当しています。そこでの目標の一つは、学生の皆さんに、ルールを具体的な事実に適用するという基本的な形を身につけてもらうことです。細かな法律の知識も大切ですが、法的思考法の基本を修得すれば卒業後どんな仕事に就いても応用していくことができます。学生の皆さんの成長のため、弁護士としての実務経験をフル活用していくつもりです。 行政組織法の研究を進めると、地方自治法や公務員法など、行政組織法に関係の強い分野を考察する必要が生じます。また、行政組織法は、行政法の中でも特に隣接諸学との関係が深い法であるといわれています。今後は、行政組織法以外にも領域を拡大すること、また、隣接諸学との関係を意識した研究をすることが課題となります。 教育面では、行政法に関する基本的な知識・ものの考え方の習得を狙う講義科目(行政法など)、講義で習得した知識・考え方を基礎として、具体的な社会問題との関係で課題を発見し解決する能力の養成を狙う演習・実習科目(行政法演習・行政法務実習)を担当しています。卒業後、公務部門に進む場合には、行政法で得た知識や考え方を基礎とした、法令・条例の運用や、政策課題の発見、政策課題に対する解決策の立案・法制化が期待されます。民間部門に進む場合にも、行政法に属する様々な法的規制との関係を意識しつつ業務を遂行することが期待されます。弘中 章 准教授船渡 康平 准教授東京大学法学部卒業、九州大学法科大学院及び一橋大学大学院国際企業戦略研究科修了。2020年4月より信州大学経法学部准教授(現職)。また2008年12月より現在まで弁護士としても活動中(東京弁護士会所属)。東京大学法学部卒業、東京大学大学院法学政治学研究科法曹養成専攻修了、東京大学大学院法学政治学研究科助教を経て、2020年4月より、信州大学経法学部准教授。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像労働法務実習の様子:労働局や労働組合から講師をお招きし、本学の労働法の専門教員とともに実習を行います。私は弁護士としての立場からもコメントするようにしています。 民法の授業では「契約」という基本的な考え方を勉強します。1、2年次に基礎知識を学んだあと、上級学年では「契約法務実習」という実習系科目が用意されています。ここでは、多くの契約のタイプのうち、特に「売買」を取り上げます。現場で活躍する弁護士、司法書士、土地家屋調査士等の専門家の指導を受けつつ、不動産取引の流れを実際に体験し、契約法がどのように活用されうるのか具体的に理解することが期待されています。・行政組織法が取消訴訟において裁判規範として機能するか、機能するとして裁判の帰結はいかなるものかについての研究(「行政法における組織規範の法的性質(1)-(6・完)」国家学会雑誌134巻1-2号-135巻1-2号(2021-2022)掲載予定)。・裁量基準の一律適用の可否についての研究(「行政決定における裁量基準の適用と個別化の要請」東京大学法科大学院ローレビュー11巻(2016)176-211頁)。主な研究事例主な研究事例行政組織法について検討している・検討を予定している問題。裁判以外の統制の局面では?どのような帰結か?裁判で働くか? 行政組織法

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