経法学部研究紹介_2020_2021_プレス品質
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19総合法律学科総合法律学科働くことに関わる法制度を学ぶ地方自治:日本の地方自治の不思議を解明する 働くことに関わるルールを定める労働法や、生きていくうえで病気にかかったり、高齢となったときなどに生活を支えてくれる法制度である社会保障法を研究しています。その中でもとくに、企業が分割したり事業譲渡したりするなど企業の組織再編が行われる際に、そこで働く労働者の権利をどう保護すべきなのかを中心的テーマとし、ドイツを比較対象国として研究を進めています。 労働法や社会保障法は、「働き方改革」や「税と社会保障の一体改革」など、多くの法改正が行われている分野です。各改正が制度全体のなかでどのように位置づけられているのか、その意義や問題点を探ることを目指しています。 私の専攻は「地方自治論」です。「朝、目をさまし、顔を洗い、食事をし、トイレで用を足す。」というふうに始まる私たちの生活は、都道府県や市町村の提供する行政サービスに支えられています。顔を洗うにも、トイレを使うにも上下水道がなければできないわけですが、上下水道を建設し、それを管理するというサービスを主に市町村が提供しています。私たちの生活の安全を守る、というのも、やはり行政サービスということになります。「地方自治」とは、一定地域の住民が、国の法律と中央政府の制約を受けつつも、このような地域の公共的な事柄について住民が自主的に決定し処理することです。これが、私の主な研究対象です。 労働法も社会保障法も、みなさんの日々の生活と密接に関連する学問領域です。現行の法制度がどうなっているのか、そこにはどのような問題点があり、どのような改正が必要なのか、あるいは、これまでなかった新たな問題に対処するために、どのような法制度が必要なのかを考えることは、自分自身だけではなく自分の家族や大切な人を守ることにもつながります。 教育面では、研究活動を通じて交流のある使用者側と労働者側の日本を代表する弁護士の方々をお招きし、双方の立場から実務の現場で、労働法がどのように使われているのかを講義していただいています。また、労働基準監督官等の業務を体験する実習も行っており、これをきっかけに労働基準監督官を目指す学生も多くいます。 労働法や社会保障法の知識は、現在アルバイトをしている場合にも、将来、公務員を目指す場合や民間企業に就職する場合であっても、あるいは起業する際にも必ず役立ちます。また、自分自身や周りの人たちを助けてくれるものです。 「地方自治論」はきわめて地味な研究分野です。事実、上記のような行政サービスは日常生活に必要不可欠なものであるにもかかわらず、私たちは特に意識することなく享受しています。そうした事柄を研究することに、「それって何の役に立つんですか〜?」などと問われれれば、まずは「役に立たないでしょう」と返答します。ちなみに、一般社団法人日本経済団体連合会の企業会員は新卒者採用にあたって専門的な知識を習得していることをほとんど重視していません。最も重視しているのは「コミュニケーション能力」です。コミュ力を論理的思考力と解釈することができるならば、先の返答に次いで、学生にとって「地方自治論」の「研究の未来」(あるいは「卒業後の将来像」)はコミュ力を修得する機会にあると教示することにします。(地方自治に限らず)重要であるけれども地味な事柄から、どのような問題を発見し、情報を収集・分析して、その原因を解明し、そしてその結果を論理的に説明することができるようになる訓練の意義は決して小さいものではないでしょう。成田 史子 准教授沼尾 史久 教授東京学芸大学卒業後、同大学院修士課程修了、東京大学法学政治学研究科博士課程に進学。同博士課程単位取得退学後、弘前大学人文社会科学部専任講師を経て、2020年より現職。早稲田大学政治経済学部卒業、早稲田大学大学院政治学研究科(修士)修了、同(博士)退学、財団法人東京市政調査会主任研究員、信州大学助教授を経て現職。ドイツ・エアフルトにある連邦労働裁判所研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像 現在、主に企業が分割や事業譲渡、合併などのいわゆる企業組織再編を行う際に、そこで働く労働者の雇用や労働条件などをどう維持するか、新しい使用者のもとへ労働者をどう承継させるかなどの法的ルールの構築方法について研究をしています。その際、ドイツ法と比較しつつ研究を進めています。主な研究事例 日本の地方自治にはきわめて不可思議な側面があり、それは広報紙の配布、防犯灯の維持管理、ごみ集積所の設置・管理等、行政サービスの一部を法的には市町村とは全く別の任意団体(町内会、自治会等)に処理させているというところです。このような現象はいわゆる主要先進国には見ることができません。この現象の近年の動向(上記サービスの直営化等)とあわせて、この不可思議を解明するために研究を重ねているところです。主な研究事例左:安曇野市の広報紙右上:弘前市の防犯灯管理シール右下:某市のごみ集積所

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