経法学部研究紹介_2020_2021_プレス品質
18/30

17総合法律学科総合法律学科環境を保全するための法制度を学び、持続可能な社会の実現を目指す(環境法)新たな知識やブランドが経済の中で生きる仕組み-知的財産法 私は、様々な環境問題に対処・改善することによって環境を保全して行くための法分野について研究を行っています。この法分野のことを環境法と言います。「環境法」という名前の法律があるわけではありませんが、環境に関連する法律は数多く存在します。各種の環境法に基づく制度や具体的事例を研究し、その制度の意義と課題を明らかにし、一定の提言を行うことによって、持続可能な社会の実現を目指しています。 私がこれまでに取り組んで来た具体的な研究テーマは、環境法の中でも、特に、①再生可能エネルギーの利用促進、②国立公園制度、③土壌汚染、④船舶に起因する海洋汚染(特に油濁)などです。 目には見えない、手では触れられない無形のものを「財産権」として取り扱うのが、知的財産法です。というと難しそうですが、実は日々の暮らしに知的財産は溶け込んでいます。たとえば、お店に並んだ商品の名前は「商標権」の対象であり、作った企業が財産権を持っているので、他の企業はマネができないのです。ミュージシャンや漫画家といった職業が成り立つのも、創った作品が「著作権」という財産権の対象になるからです。 こうした日常的なもののほかに、最先端技術の成果も財産権になります。ノーベル賞を受けた本庶佑先生の発明は「特許権」の対象になっており、何兆円もの価値を生み出しています。アップルやマイクロソフトのビジネスも、知的財産権抜きでは成り立ちません。現代の最も重要な法分野です。 経済の発展は私達の生活を豊かにするものとして重要ですが、環境汚染の発生は回避されなければなりません。環境への負荷の少ない経済の発展が図られることによって、私達の社会は持続的に発展して行くと考えられます。最近は、再生可能エネルギー(太陽光、風力、地熱など)に関する法制度の日米比較研究に取り組んでいます。こうした研究によって持続的発展が可能な社会の構築に向けて貢献できると思います。 卒業論文における研究テーマとしては、「持続可能な発展概念」「環境権」「廃棄物の不法投棄」「絶滅危惧種の保護のための法制度」「容器包装リサイクル法」「土壌汚染事件に関する裁判例の分析」「環境影響評価制度」「有害廃棄物の越境移動」などが考えられます。 また、卒業後は、地方公共団体(つまり、地方公務員)や民間企業の環境部署、環境関連の研究機関や財団法人などへの就職が考えられます(もっとも、就職先は環境関連に限られるものではありません)。環境問題を取り扱う法律家になることも考えられます。 知的財産法の対象である「知的財産権」は、今日の経済社会の中で重要になってきています。漫画家のように独り立ちで仕事をする場合だけでなく、大企業の経営にとっても知的財産権を上手に取り扱うことが必要です。また、農業のような分野でも、「とちおとめ」や「長野ワイン」といったブランドは不可欠です。どんなビジネスでも他と「差別化」しなければ繁栄は見込めませんが、その鍵を握るのが、知的財産権なのです。 知的財産法は財産権を扱うという点では民法の応用分野、侵害に対して刑事罰が課されるという点では刑法の応用分野、また権利の発生について行政処分がかかるという点では行政法の応用分野ということになります。信州大学では、他の分野との連携を基本に据えて「知的財産法基礎」という科目をまず履修し、そのあと「知財法務実習」など実習系科目と連携する体制を整えています。 独り立ちで起業するときも、大企業に勤務するときも、また国際的な舞台で活躍するにも、知的財産法を勉強しておくのは、とても有益です。 科学技術研究の成果を世の中で生かすための「特許法」や「産学連携」について、多数の論文を発表してきました。特許法を時代に合わせて改正するための政府審議会での司会役も務めています。また、作詞家・作曲家が結集して権利を護る仕組みである日本音楽著作権協会(JASRAC)外部理事を6年務めました。ブランドについては、科研費という文科省の研究費を得ています。近年は、経済安全保障という国策ともからむ「営業秘密」の分野に注力しています。知的財産法に関係する新聞記事の数々。(すべて経法学部の授業で取り上げたものです。)小林 寛 教授玉井 克哉 教授慶應義塾大学法学部法律学科卒業、テュレーン大学ロースクール・エネルギー・環境法修士課程修了、早稲田大学大学院法学研究科博士後期課程修了。博士(法学)。長崎大学准教授などを経て、現職。1983年東京大学法学部助手、86年学習院大学法学部講師、88年同助教授、90年東京大学法学部助教授、95年東京大学先端科学技術研究センター助教授、97年同教授。2016年より信州大学経法学部教授を兼任。2013年弁護士登録。研究の未来と卒業後の将来像研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例・船舶や洋上掘削施設に起因する油による海洋汚染(「油濁」と いい、地球環境問題の一つになります)に関する国際的な事故 (日本国内の事故を含む)(例えば、エリカ号事件、プレステージ号 事件、メキシコ湾原油流出事故、ナホトカ号事件など)を取り上げ、 油濁事故から生じる法律上の問題点を研究して来ました。・温泉発電を活かした持続可能な温泉地(土湯温泉、小浜温泉 など)の形成に関わる計画論的研究(共同研究)左上:油濁事故の現場の写真中:環境法が目指す社会のイメージ図右上:廃棄物の不法投棄の写真主な研究事例持続可能な社会脱炭素社会自然共生社会循環型社会

元のページ  ../index.html#18

このブックを見る