経法学部研究紹介_2020_2021_プレス品質
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13応用経済学科環境問題への向き合い方を経済学・経営学の視点からデータを用いて考える 「環境問題といかに向き合うか」について、経済学・経営学の視点からデータを用いて研究しています。例えば、地球規模の環境問題として気候変動問題があります。1900年以降の気候変動の原因としては温室効果ガス(二酸化炭素など)が有力で、現在、人類にとって望ましい排出水準を超えて温室効果ガスが排出されている状態です。なぜこのような状態になるかというと、経済学的な視点では、生産者が自らの活動水準を選ぶときに、負の外部効果(市場経済を経由することなく他者に及ぼされるマイナスの影響)が働くためです。この負の外部効果を克服するために、経済学的視点で市場全体から、経営学的視点で企業側から、それぞれ複合的にデータを用いて考えていこうというのが私の研究テーマです。 現在は、まず企業がいかに温室効果ガスや廃棄物を排出・発生するのかを説明する環境経営モデルを開発・研究しています(図参照)。特に、企業が廃棄物発生を管理・抑制し、同時に費用を削減できる会計手法である、マテリアルフローコスト会計の導入とその調査をしています。調査対象は、主に日本など先進国と、近年生産・消費活動の拡大が著しいアジア地域です。 また、近年注目されているESG(環境・社会・ガバナンス)投資の効果を測るため、環境技術の進歩の度合いとその影響について調査しています。国や企業レベルで、生産性を推計するモデルを開発し分析しています。 受講生は、これからの時代にますます重要になる環境問題を、経済学・経営学的に考える視点を身に着けることが出来ます。経済学的視点は公務員などの政策の観点であり、経営学的視点は民間企業でいかに利益を挙げるかという視点です。データ分析の仕方も学びますが、これもこれからのビッグデータ時代の流れに沿う方法です。・企業の社会的責任(CSR)行動や環境・社会・企業統治の向上(ESG)が、企業利益に結び付くか・技術生産性としての特許生産性の計測・日本の自動車保有行動の調査・地震やコロナウイルスなどの経済ショックの分析図は、製造企業一社のマテリアル(実線)と金融(点線)の流れを示す。左から、企業はMCをかけて、原材料を調達する。ごみ(上側)は、EC&SCとWMCをかけて、発生する。製品(下側)は、EC&SCで作られ、販管費によって顧客に売られ、売上が発生する。この過程で、二酸化炭素(CO2)や直接+間接の温室効果ガス(Scope 1+2)が発生する(※Scope 3はサプライチェーンの温室効果ガス)。 (引用元より修正: Yagi and Managi, 2018)図 企業のマテリアルフローと金融フロー八木 迪幸 講師2013年東北大学大学院環境科学研究科博士課程修了、同研究科産学官連携研究員(2013~2014年)、神戸大学社会システムイノベーションセンター(旧社会科学系教育研究府)特命准教授(2014~2018年)を経て、2018年より現職。研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例応用経済学科フィールドワークで都市計画の社会的プロセスを分析する「まちづくりの人文学」 「まちづくりの人文学」をテーマに研究しています。従来、まちづくりを研究してきたのは主に工学系の分野ですが、望ましい都市を計画しようとする工学に対して、「なぜそのように計画されたのか」「計画通りに動かないのはなぜか」というふうに、都市計画をひとつの社会的現象として分析するのが人文学の立場です。都市のあるべき姿を提示し、将来の変化を予測する工学が未来志向の学問であるのに対して、過去のプロセスを解明する人文学は後向きの学問かもしれません。しかし、規範や予測を示さないからといって役に立たないわけではなく、都市計画をめぐって生じた行為や因果のプロセスを明らかにする研究は、反省的思考を通じて新しい都市計画のあり方にフィードバックされることが期待されます。 これまでの都市計画は、急速な都市化に対応するため、効率性や公平性を重視したトップダウン型のまちづくりであり、都市が縮小する局面では機能しなくなったことが明らかにされています。これに対して近年では、最初から大きな画は描かない個人やネットワークによる戦術的なまちづくりから、いくつかの成功事例が生まれています。こうしたトップダウンによる計画や制御とは対極的なプロセスを分析するには、ボトムアップ型まちづくりの担い手となる個人のライフコースや生活行動、そこで形成されるコミュニティやライフスタイルについて、フィールドワークによって綿密に分析する人文学的なアプローチがより重要になると考えられます。 このように、今後の都市縮小局面は、組織よりも個人がまちづくりで中心的な役割を果たす時代であり、行政でも民間企業でも、新しいまちづくりのプロセスを理解した人材こそが、地域においてキーパーソンになるはずです。 調査成果をまとめた書籍「信州まちなみスタディーズ〈佐久穂〉:谷あいにたたずむ近代化の遺構」と「信州まちなみスタディーズⅡ〈小諸〉:坂のある城下町の曲がり角」左上:リノベーションまちづくりの調査(長野市)左下:調査の現地報告会(長野市)右:ゼミ生による商家再生プロジェクト(佐久穂町)武者 忠彦 教授1997年東京大学理学部卒業。メーカー勤務を経て、2006年東京大学総合文化研究科博士課程修了。同年より信州大学経済学部講師、2008年より准教授、2020年より現職。専攻は人文地理学、都市政策。研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例

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