経法学部研究紹介_2020_2021_プレス品質
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9応用経済学科生産性の切り口から、地域間格差の要因を探る 日本の産業別生産性を計測するJIPプロジェクトと、その姉妹版で地域別・産業別の生産性を計測するR-JIPプロジェクトに近年携わってきました。生産性の正確な計測のためには、産出と生産要素投入をできるだけ正確に測る必要がありますが、特に地域レベルでその分析を行うには、単純なデータ上の制約に加えて、地域分析特有の困難があります。例えば、サービス産業の多くでは「消費と生産の同時性」があり、地域間価格差をどのように計測するかという問題が生じます。また、地域を跨って事業活動を行っている企業では、本社活動によって生まれる本社サービスを他地域の事業所の中間投入として扱って二重計算を避けるという問題があります。こうした課題を一つ一つ解決していく作業に取り組んでいます。 EU(欧州連合)が最近直面している経済的困難や、2016年の米国大統領選挙の予想外の結果の背景には、地域間格差の問題があります。また、日本では、今後数十年確実に予想される人口減少・高齢化のなかで、生産性と一人当たり所得の低い地域は人口流出が自然減に加わってさらに一層厳しい現実に直面することが予測されています。こうした背景から、われわれのプロジェクトで作成しているデータは、「平成27年版経済財政白書」、「平成29年版通商白書」、「令和元年年版労働経済白書」を始め、多くのところで引用・活用されています。また、JIPデータは、EU-KLEMS及びWorld-KLEMSの日本データとして、国際比較に利用され、様々な政策分析に活用されています。 大学で経済学を勉強した人の強みの一つは、データ数字を使って社会を分析しその未来を議論できることです。これから日本が直面する人口減少と高齢化は、世界に先駆けて直面する困難であり、そのなかで有効な政策提言やビジネスモデルを提示できる人材が求められています。 2018年に出版した編著の『日本の地域別生産性と格差 R-JIPデータベースによる産業別分析』(東京大学出版会)では、研究リーダーを務めるR-JIPデータベース・プロジェクトのこれまでの研究成果をまとめて発表した。序章、第1章、第2章、第3章、第5章を担当した。2018年に米国ハーバード大で行われたWorld KLEMSの参加者達と、ジョルゲンソン先生夫妻を囲んで記念撮影。私は前から4列目中ほどにいる。World KLEMSは世界の生産性比較を行う研究プロジェクト。徳井 丞次 教授1978年東京大学経済学部卒。1988年東京大学大学院経済学研究科単位修得満期退学。1988年講師として信州大学経済学部講師として採用され、現在の職に至る。2011年より独立行政法人経済産業研究所のファカルティ―フェローを兼務。研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例応用経済学科よりよいマッチングを実現する仕組みをつくる 私はマッチング理論を専門にしています。マッチング理論は、男性と女性、 大学生と研究室、社員と職場といった2つの異なる集団に属する人と人(あるいは人と組織)をどのように組み合わせればよいかという問題を数理的に分析します。人々の好みを反映した望ましい組み合わせを見つけることを目的としています。マッチング理論を用いれば、例えば、合コンにおいて「全ての人が可能な中でベストな相手とカップルになっている組み合わせ」を見つけることができます。大学生のゼミ所属や社員の職場配置の問題においてもこのような組み合わせを見つけることができ、幅広い応用先を持ちます。 マッチング理論は数学理論です。私の研究風景は机でノートとペンを片手に一日中数式と睨めっこしている感じです。一方で、マッチング理論の成果は現実の制度を設計するうえで極めて役に立つことが近年認知され始めています。例えば、学生の公立学校への割り当て、研修医マッチング、臓器移植といった問題にマッチング理論は応用されています。今後も、様々な現実問題にマッチング理論の成果が応用されることが期待されます。私自身は現在、マッチング理論の枠組みを用いて「企業合併(もしくはジョイントベンチャー)の規制政策」について分析を行っています。 学生はマッチング理論を通じて論理的思考力を身に付けられます。現実に存在する制度の良し悪しを論理的に議論することができるようになります。また、初歩的なコンピュータープログラミングの技術を身に付けられます。これらの能力は、学生の皆さんが将来どのような進路を選ぼうとも有益なものになります。 ジョブローテーションにおける望ましいスケジューリング方法の提案:ジョブローテションとは同一企業内で社員が定期的に職場異動を行うことを意味し、多くの企業で行われています。マッチング理論の枠組みを使って、社員と職場の好みを反映した望ましいジョブローテーションのスケジューリング方法の提案を目指しています。マッチングは人(点)と人(点)の結びつき(線)を表します。坂東 桂介 准教授2008年、東京工業大学工学部卒業。2013年、同大学の博士課程修了。同年、日本学術振興会特別研究員(PD)。 2014年、東京工業大学社会工学専攻・助教。2016年、東京理科大学経営学部・助教を経て現在に到る。BD研究の未来と卒業後の将来像主な研究事例

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