人文学部研究紹介2021-2022
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──ダンスを考えることで世界の知識が広がるというのは、なんだか夢のようですね。 ダンスのみならず、芸術表現はその時代時代の人間の精神や問題意識を反映するものだから、この動きが面白いなあ、とか、なんだかわからないけど引っかかるなあと考えているうちに、驚くほど豊かな人びとの考え、クリエイターの思考を知ることができるものなんだよね。私の場合は、ダンスを通して人間の身体が背負うさまざまな現象の奥深さ、コミュニケーションの複雑さ、そして人間の身体に投げかけられていく視座の多様さを知ることなんだ。──先生がされている研究ってどんな内容なのですか? 各国の伝統的なものから現代的表現の舞踊まで、踊りにかかわるあらゆることだけど……たとえば、学生とのフィールドワーク、長野県の儀礼・神楽(かぐら)の調査では、普段踊らないような学生も神楽の舞に実際に挑戦したりしているの。伝統的な身体技法が現代に脈々と伝承される様相を自身の身をもって体験しながら、儀礼全体やその土地の日々の生活、身体の動きに込められた祈りについて共同体の人びとにお話を聞いたりするときは、何百年、何千年も昔の思考を時空を超えて身体でダイレクトに受け取っているような感覚になり、ゾクゾクする瞬間。私の実践研究である舞台創作は現代の舞踊だけれども、それは決して伝統的な身体技法と、まったく異なるものではないと思ってるんだよね。感じたことに対して 新しい言葉や思考回路を獲得していく──現役の振付家である先生が大学でされている授業はどのようなものですか? 学生はみんなダンサー志望なんでしょうか? ほとんどが「ダンサーになりたい!」という人ではありません。授業では実際のダンス作品を見てもらって、振付家の理論を研究したりします。たとえば現代の振付家の中には、有名なクラシックバレエの『白鳥の湖』を現代版にアレンジして、ダンサーをスキンヘッドにして、がにまたのぶかっこうな姿勢で歩かせちゃうなんていう人もいる。最初は見たことがないジャンルのせいか、見方にとまどう学生も多いみたい。でもどういう意図で作品が創られているかを読みといていくと、今まで知らなかった美しさを発見するだけでは終わらずに、 いろいろなものが見えてくると思うよ。──芸術への鑑賞眼を高める、みたいなことですか? 何かを見て面白かった、つまらなかっただけで終わってしまうのはもったいない。自分の感じたことに対して、新しい言葉や、思考回路を獲得していくと、芸術作品の見方自体も変わってくる。自分の脳の中にある白地図に次々と道を書き込んでいくような作業をする授業ともいえるかな。そうやって「自分マップ」みたいなものをつくっていってほしいな、と思いますね。29

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